仲良くなれない冒険者

弓の人

第1話

自分が他人と関わることに向いていないと認めたのは10代半ばのことだった。


私はまだ学舎に通っており、他人との関係を持つにはもってこいの場所ではあったが私には心の底から仲が良いと言える友人はいなかった。


別に人と関わりたくなかったとか人を罵倒せずにはいられない等の悪癖や感性を持ち合わせているわけではなかった。だが何故か私には友人ができない。


話さないと言うわけでもない。話しかけられれば当たり障りなく返すし、話しかけることだってある。しかし私には友人ができない。


容姿が特段酷いと言うわけではない。父母から授かったこの体は極めて凡庸というわけではないがよくて中の上といったところだろう。


私はこの出来事に今までの人生全てにおいて付き合ってきた。つまり友人らしい者は今の今までついぞ出来なかったのだ。


このことは幼少期の私を酷く悩ませた。何せ空き時間があると彼らはお気に入りの友人の元へ行き楽しそうに話し合うのだ。それを私は一人でちらちらと見ていた。


この時期の子供達は群れることが大切であると感じ、そしてそれは大人になってもある程度は大切なことだと実感し始める。つまり将来に向けた投資に近い。もっともそんな打算的に近づいたりはしないのだろうけど。


そんな大切な事柄に遅れ、ついていけなくなった当時の私の焦りようは今思い出すだけでも顔が赤くなくる思いだ。


色々なことを試した。話しかけたり、流行に乗ったりetc…、様々なことを試した。だが結果は芳しくなかった。それゆえ当時は酷く心を病んだものだ。


逃げ道はなかった。私のこの性質は両親にまで伝播した。特に実感を得たのは弟が生まれてからだ。思い返すと弟が生まれるまでも愛に溢れていたのかと問われると首を傾げてしまう。しかし私にはそれが普通だった。


それが壊れたのが弟の出現だ。両親は新たにできた命を大切に扱い、弟を過保護に扱った。その光景を見た私は、愛とはあのようななものなのかと一人で感動してしまった。


ここまで聞くとまるで私が両親に愛されず、友人らしい友人もいないひ弱ないじめられっ子を想像するだろう。


しかし私は今日までいじめられずーどころかそこそこの付き合いはあったー両親にもきちんと大切に育てられた。


なので世間から見て私の人生は一見普通に見えるだろう。しかし、私の人生を他人に振り返らせる時、いかに空虚なのか。その事実に苦しむことだろう。


私は友人と遊んだ記憶がない。両親と出かけた記憶がない。弟とまともに合わせた記憶がない。私の人生は全て私で完結している。他人が出てくるのは私の補助としてであり、メインで出てくることは一切無いのである。


虚しい。そう、虚しいのだ。そしてそれはいつの時代でも私が感じていたことであり、それを埋めるために奔走した理由でもある。


そしていつしか私は手を伸ばすことをやめ、自己を認め、完結することを受け入れた。


つまり私は恐らく一生一人という予測を許容した。もう他人に心の開示を求めず、社会構造の中で自身の本能が望むように動くことを人生の方針とした。


せめてこの胸の中の穴を埋めるために、と。


しかし生き物というのは刺激を好むものだ。ホラー映画好きはこの刺激というのに支配されているから恐怖映像を好むらしい。ほかに有名なのは電極をつけたマウスなどがある。


私も例に漏れずホラー映画が好きだ。つまり私も刺激を欲しているのだ。


だがーこれは私見だがー人間というのは他者と関わることで刺激そのものや新たな刺激を受ける方法を得るものだと思う。


そしてそれは大部分を占めるだろう。普通の人間ならばどうということはない。だがここにその大部分の大半を失ってしまった男がいる。ではどうするのか、一生ホラー漬けで生きるのか?いや無理だろう。恐らく慣れができてしまい、いずれつまらないものに化すだろう。


ではどうするのか。そう考え、考えに考えて私は一つの答えを導き出した。


そうだ冒険者になろう、と。


★☆☆☆☆★


冒険者とは、この世に存在する神秘の凝縮体。神話の残り香とも言われている遺跡を探索する者達の総称だ。


この遺跡からの利益として今の人類社会では長らくお目にかからなかった魔術というものが普及している。これは全て遺跡からの発掘から得られたものではないが、その大半を占めているのが遺跡なのだ。


魔術が遺跡から発掘されたことにより人類は飛躍的な進歩、あるいは退化を遂げる。生物としてはより高次元に至ったであろう。しかし現在の人間は科学よりも魔術を好み、それを見下すようにもなった。人類全体の科学的技術力の所持という視点から見ればおよそ1〜2世紀ほどの英国まで遡ったであろう。


それも全て魔術への依存が原因だ。故にそれを発見する冒険者というのは割りかし高時給の職で夢のある職であった。それ故に少年少女の憧れの職業にもノミネートを果たした。


しかし先程も述べた通り遺跡というのは神秘・神話の塊だ。当然それに由来、もしくは新出する怪物がうろついている。なので世界で業務中の死亡率がとても高い職でもあるのだ。


そして私はそこに飛びついた。死亡率が高いという点に。


これならばいける!これならば私は飽きることがないだろう!そう思い込み私は冒険者の門を叩いた。


やっと正しい道を歩んでいる、そんな感情が頭の中を巡り続けた。












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