異世界神殿でチートを授かる

ゆずどりんこ

第1話古本屋『誘い書店』(1)


放課後、高校2年生の蒼木颯は学生達の青春である部活に勤しむ事もなく、最後のHRが終わるとそそくさと椅子から立ち上がり、乱雑に机の中にある教科書やノートを引っ張り出し、鞄の中に詰め込む。


担任の先生や宿題として出されたプリントは乱雑に鞄に入れられたせいでくしゃくしゃになっていたが蒼木颯は後悔しない。


鞄を、肩に担ぎながら同級生達の隙間をスルスルと抜けながら教室の後方にあるドアへと向かう。


途中、自分の肩と同級生の背中が当たる事もあったが特に問題なく無事辿り着くと、ドアの取手に手をかけながら左へとスライドする。


ガラガラと音を立てながら左側へとスライドし、やがてこれ以上スライド出来ないと知らせるかのようにドアが壁へと接触する。


それと同時に颯は教室から廊下へと足を踏み出し、自分の靴がしまわれている玄関へと歩き出す。


階段を降り、1階へと辿り着くと目の前には玄関と靴箱が視界に入る。


颯以外にも何人かの男子学生や女子学生が玄関でスリッパから自分達の靴へ履き替え、外の世界へと消えていく。


颯もそれに続く様にスリッパから何年も前から履いているくたびれた靴を履き、狭い校舎の世界から太陽の光が容赦なく照りつける壮大な世界へと消えていく。


「今日はあの異世界転移の新刊の発売日だから帰りに買って帰って、あとはいつもの古本屋で何か読んでないラノベがあったら買って帰ろうかな」


待ちに待った大好きな異世界転移の漫画本の発売日とあってか、足取りはいつもより軽い。


本屋までの道のりでいい香りが漂ってくるパン屋さんを華麗に通り過ぎる。


通り過ぎた後、お腹の虫がグゥグゥと食べ物を要求してきた事に『立ち寄って焼きたてのパンを買って帰れば良かった』と少し後悔したがすでにパン屋は遥か後方まで離れていた。


ここからまた引き返してパンを買いに行くのも手間だし、面倒だなと思った颯は後ろ髪をひかれながら、パン屋を諦め歩みを進める。


最初に立ち寄ったのは異世界転移の新刊が置かれている本屋さんだった。

クーラーの効いた店内を脇見をせず進み、目的の新刊売り場の前で足を止める。

そこには目的の新刊以外にも沢山の新刊等が綺麗に陳列されており、漫画好きにはエデンの様な場所ですらあった。


颯は目的の異世界転移の新刊を手に取る。

目的は果たした。

これであとはレジで購入するだけだと。

そう思ったのは過去の話。

今の颯はレジの前で2冊の新刊を購入している最中だったのだ。


お金を払い、商品を受け取った颯は再び外の世界へと飛び出した。


「……予定外の新刊もつい買ってしまった…。」


財布の中身が予定より多少寂しくなった現実に少し後悔したが、逆に読む楽しみが増えたと思えばまぁいいかと納得する。


気持ち軽くなった財布をポケットにしまい、前を向く。


「あとは、古本屋によって帰るだけだな。」


次なる目的地に向けて迷いなく足を進め、大通りから脇道に逸れて、狭い道を突き進む。


すると、道の端から野良猫が2匹仲良く連れ添いながらにゃぁにゃぁ可愛い鳴き声を上げながら颯の目の前を横切り、人が入り込めない路地へと消えていった。


「……猫ですらリア充とか、俺は負け組確定だな…」


はははと乾いた笑い声を吐きながら、路地へと消えていった2匹の野良猫の方を凝視するしかなかった。


そんなこんなで颯は、また歩みを進めると目的地である古本屋『誘い書店』と呼ばれる年季を感じる外見の一風変わった店名の本屋へと入っていった。










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