初対面のはずなのに

「誰だよお前。新入生か?」

質問しながらも、そうじゃないと気がついていた。

白髪の男は気だるげに頬杖をついて、テーブルに乗りかかっている。

こんなにふてぶてしい新入生なんて、いないだろう。

だが新入生じゃないなら、何者なんだ。

こんなに目立つ容姿なら、同じ学年じゃなくても話題になる。

新年度がはじまってからだいぶ経つのに、噂のひとつも聞いたことがないのはおかしい。

そんなことを考えていたせいか、対処が遅れた。

気がつけば白髪の男は、俺の手を取っていた。

指の長い両手で大切そうに包み込みながら、ニッコリと微笑んでくる。長いまつ毛が、笑いを含んだ目元に影を作る。

まるでトップアイドルの神ファンサみたいな状況に、脳がバグった。

今すぐこの手を振りほどかなければ。

頭ではそう思うのに、体が言うことを聞かない。

ただ目の前のとんでもなく整った顔を見つめる俺へ、男はねだるように口を開いた。

「なあ、そろそろ俺のものになってくれよ」

「……は?」

「俺は十分待ったぞ。これ以上お預けされたら、我慢できない」

意味の分からないことを聞かされた俺の頭の中は、クエスチョンマークでいっぱいだ。

誰が誰のものだって?

俺に待たされたみたいなことを言ってるが、この男とは初対面だ。

「お互いに成長したな、晄」

「……なんで名前」

「教えてくれたことは、ぜんぶ覚えてる」

当然のように俺の名前を呼んで、男はニッコリと笑う。

教えた? 俺が?

まったく覚えがない。下の名前も伝えるほどの関係は、大学内ではそれほどない。

ならどこかで、この男と繋がりがあるんだろうか。

例えば入学してすぐのサークル勧誘や、それとも他大学と合同の特別講義なんかで知り合ったのかもしれない。

いや、しかしこれほど目立つ外見をしていたら……

そう、またもや考え込んだら俺は、今度も気がつけなかった。

見つめ続けていた男の顔は、間近で見ても整っている。

そいつの漆黒の瞳が大きくなったかと思うと、まるで白絹のようなまぶたでふと閉ざされた。

惜しいな、見えなくなっちまった。

まるで黒葡萄のように真ん丸で艶のある瞳は、ずいぶんきれいだったから、見えなくなったのは残念だ。

そんなことをぼんやりと考えるうちに、目の前に形の良い鼻梁が迫ってきた。

イケメンは鼻までイケてるんだな。

そんなことを思いながらぼうっとしていた俺の唇に、暖かくて柔らかいものが触れる。

フニッとして柔らかい、そして少しずつ温かさが伝わってくる。

ふっと吐息が俺の頬にかかった。

――いや、吐息……だと!?

「……っ! テメ……ッ?」

「なあ晄。もっとしよう」

「キス……してんじゃねーよ!」

ボグッ。

鈍い音が学食に響いた。

俺は、謎の美青年を思いっきり殴ったまま、勢いよく走って逃げたんだ。

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異世界転生BL「天婚契約」 天白龍との異世界婚を契約済み!?俺がモテすぎるのは解釈違いだ!(だって全員男でケモノだし) @tsukiyonoio

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