第1話

「なあ、知ってるか?『町はずれの廃墟』の話」

「知ってる。廃墟に閉じ込められてる幽霊がいるみたいなやつでしょ?」

「そうそう!…今日、行かね?」

「え…ほんとに?」

「だってよー、今日は午前に終業式やって終わりだぜ?暇だろ?」

「でも今日雨降ってるじゃん…」

「いいから行くぞ!2丁目公園に集合な!」

「えー…嫌だなあ」



「本当にあるんだな、廃墟…」

「大きいし、なんか周り暗くない…?ばれたら絶対怒られるって…」

「大丈夫だって!」

「…知らないぞ、本当に。僕は止めたからな!」

「てか、中もっと暗い」

「うわ…。ねえ、なんか臭くない…?」

「そりゃあそうだろ。ずっと使われてないだろうし」

「でも、なんか変だよ」

「二階の方が臭いな…行ってみようぜ」

「嫌だ」

「ここまで来たんだから行くんだよ!俺たちがこれ解決すればヒーローだぜ」

「…まあ、そうかもしんないけど」

「ほら行くぞ!」

「はーい…」



「――う、あ…!」

「どうしたのカズキ?二階になんかある――って、急にどこ行くの?解決は?」

「…行っちゃった。何があるんだろう、2階に」

 彼はカズキが見たものを確認しようと階段を上った。階段を上ってすぐ右手には部屋がある。

 その部屋の中に、腐臭を放つ何か黒いものが床に落ちていた。

「――な…」

 しかし、彼が恐怖したのはそっちではない。彼の視線の先はその黒い何かの奥、バルコニー。

 じたばたと、人とは思えない速さで足を動かしている、吊るされた人影があった。顔は青白く、よだれを垂らしながら口を大きく開けている。手は縄を解こうと喉元を引っ掻き、えぐり、血だらけになっている。

 彼は呪いから逃れられなかった。首吊り自殺は失敗だった。

 彼はここから出られない。死ぬことは許されないし老いることも許されない。

 あの時、彼女の人生は彼の手によって最終話を迎えた。彼女は永遠に続く物語から解放されたのだ。そして間杉晴風という人間の物語のプロローグが始まった。

 あれから20年が経ったが、まだ第1話に過ぎない。

 そして彼の物語はこれから何十話も何百話も何千話も続く。最終話は未確定。

 ずっとずっとずっとずっと、永遠に首吊りの苦しみを味わう。

 トリガーは、彼女を殺したこと。

 間杉晴風の、最初で最後の恋愛で――最初で最後の失敗。


 ペトリコールが匂う、寂しい日だった。

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咒法の解法 涌井悠久 @6182711

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