最終章 落零

第112話 成敗

 一週間後。

 市長邸前にて。


「計画は失敗でしたね。市長」


 百合芽ゆりめに指摘され、信護しんごしぶい顔をする。


「なに、妖魔王ようまおうは不滅じゃないし、またやればいいだけだ」


 そう彼が答えた瞬間だった。


貴方あなた藤波ふじなみ家を支援していたんですね。そして、俺から全てを奪ったのも」


 振り返ればそこには、少年がいた。


「お久しぶりです市長さん。俺のこと、覚えてないですよね? 五十土五奇いかづちいつきです」


 静かなトーンの五奇いつきに、信護しんごは穏やかな笑みで答える。


「覚えているとも。命の恩人だからね? それで、その。どういう意味かな?」


「全てわかっているんです。貴方あなたが……妖魔王ようまおうのエネルギーを利用して、町を支配しようとしていたことも。そのためにたくさんの犠牲が出て、それを父に告発されるのを恐れてにのまえすずめを手引きしたことも。そして……あの時倒れていたのは、藤波ふじなみ家の秘術ひじゅつを自身に使おうとして失敗したことも。全部、ね?」


 五奇いつきの言葉に、信護しんごの頬が引きつるのがわかった。


「……若いのに、もったいないねぇ。悪いけど、黒武こくぶ君。……黒武こくぶ君?」


 秘書を呼ぶ反応がない。どうしたものかと見てみれば、彼女は拘束具で拘束されていた。


「なっ!?」

 

 驚く信護しんごに対し、五奇いつきが静かに告げる。


「終わりだよ。お前」


 そう言って五奇いつきは、信護しんごの顔に一発、強烈きょうれつこぶしを喰らわせると彼は気絶し、処理班が確保した。その横でルッツが静かにたたずんでいた。


「……よかったのかい? これで」


「はい。ルッツ先生こそ、自分の手柄渡して良かったんですか?」


 実はルッツは内偵を行っていたのだ。先程、五奇いつきが話した情報も、ほとんどがルッツの調べによるものだ。だが、彼はその手柄を五奇いつきへと譲った。なお、鬼神おにがみが入手した悪魔あくま欠片かけら信護しんごが失敗した秘術ひじゅつ、その媒体ばいたいかくだったのだという。


「僕は御覧の通り、ただのしがない退魔師たいましでね? それも手負いの、ね? だからこそ、前線は若いものに任せるさ。それより……」


 そこで言葉を区切ると、ルッツがにこやかに笑いながらからかうように言う。


乙女おとめ君とは順調かい? まさか君達がくっつくとは予想外だったよ?」


「あはは。俺もですよ……。まさか……」


 思い返すのは藤波ふじなみ家との決着が着いた後、病院でのこと。夜中に待合室に呼び出された五奇いつきはそこで、鬼神おにがみに告白されたのだ。


『借りは返す……とは言ったが、でかすぎて返せねぇ。だから……一生かけさせろ』


 普段の彼女からは想像もできない重たい告白に、五奇いつきは困惑したが鬼気迫ききせまる彼女のあつに負けて付き合うことになったのだ。


「ま、まぁ。段々慣れてきましたし……それに……」


「それに?」


 五奇いつきは頬を赤らめながら答えた。


「案外、悪くないかなって……思います」


 それを聞いてルッツは優しく微笑むと、五奇いつきに声をかけた。


「おっと、そろそろ……両我りょうが君の葬儀の時間だ。いいね?」


「……はい」


 二人は並んで会場まで歩きだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る