第110話 爽快と

 壱右衛門いちえもんの動きがどんどん素早くなっていく。それに合わせてまとっているきりも濃くなっているようだった。


「総員! 急げ! わからんが、危険だぞ!」


 齋藤の声で危機感がより一層こみ上げてくる。


(どうする!? どうすれ、ば……!)


 焦る五奇いつきの横を白い布がなびき駆け抜けて行った。その勢いは凄まじく、壱右衛門いちえもんに一気に接近するとおに達を呼び出して彼の動きを封じた。

 金色のおにと銀色のおに金龍応鬼きんりゅうのおうき銀虎轟鬼ぎんこのごうきだ。それは、皆がよく知る人物のおにで。


「やぁご老人。僕にもそろそろ活躍の場を、ね?」


「ルッツ先生!」


 五奇いつきが声を上げれば、彼はにこやかに微笑みながら壱右衛門いちえもんと対峙する。


「これ以上、好きにはさせないよ?」


 だが、壱右衛門いちえもんは不敵に笑うと静かに口を開いた。


「準備は十全じゅうぜんよ。さぁ、おににえとなるがいい!!」


 壱右衛門いちえもんの姿が見て行くうちに融解ゆうかいしていく。そして、上半身だけではあるが二十メートルは超えるだろう、巨大な一本角の真っ黒な肌のおにが現れた。


「で、でかすぎんだろ……!!」


 鬼神おにがみが思わず声を上げる。その声は震えており、足もすくんでいるのがわかる。その場の全員が凍り付く中、五奇いつきが意を決して動き出した。

 参弥さんび輪音りんねを変形させたままで。


「いっけぇぇぇ! 参弥さんびセット、ゴー!」


 勢いよく射出しゃしゅつされたブレードは、その超巨大鬼ちょうきょだいおににとっては痛くもかゆくもなさそうだった。


「くっそ!」


五奇いつきちゃん、無理っスよ! ここは一端……!?」


 五奇いつきを止めようとする等依とういの肩を、ルッツが軽く叩き、唱えた。


ひとにしてあらず、かみ一端いったんになものかみよ、今こそ呼び降ろさん。!」


 ルッツが呼び出したのは、日本神話でもっとも有名な武神ぶしんの名を持つ再現体だった。


「……アンタ、何者だ。その技は神禊かんばら家の者にしか扱えない」


 輝也てるやけば、彼はあっさりと答えた。


「簡単な話さ。母が神禊かんばら、父が蒼主院そうじゅいん。その生まれにより、ありがたくも恵まれたのが僕、蒼主院輝理そうじゅいんかがり……ってわけさ。さぁみんな! ここからが正念場しょうねんばだよ!」


 ルッツの言葉に齋藤が反応する。


「貴様! 遅れてきておいて! はぁ……動けん者もいるから私はそちらの措置を行う! 後は任せたぞ!」


 そう告げると、齋藤は麗奈れいな達の元へと向かって行く。どうみても麗奈れいなが戦える状態じゃないからだ。


「そうねぇ……。じゃあ音操癒々鬼おんそうゆゆきでみんなに癒しを与えるからぁ。頼んだわよぉ?」


 由毬ゆまりはいつもの調子だが、その目つきは真剣そのもので。


「姉貴頼んだからな!? ひつぎ、連携で行くぞ!」


「……えぇ!」


 鬼神おにがみひつぎに声をかける。二人はおに達に祓力ふつりょくを更に送る。等依とうい合身一体ごうしんいったいを再度行い、加わった。


「……援護に回る。夜明よあけは……黒曜こくようか」


「あぁ。わしも援護に回ろうぞ」


 空飛あきひ黒曜こくようへと変化し、彼とともに援護に回ると宣言したのを見て、五奇いつき灰児はいじと視線を交わせる。


「やれるな? 五十土いかづち!」


「もちろん!」


 総力戦が……始まった。

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