第109話 ひとまず

術式じゅつしき! 伍銘ごめい! 舞砲列火まいほうれっか!」


かげ術式じゅつしき壱銘いめい影縫かげぬい!」


 灰児はいじ琴依ことえが同時に技を放つ。ける壱右衛門いちえもんを追うように、等依とうい鬼神おにがみひつぎおに達が猛攻もうこうをしかけ、輝也てるやがアメノミナカヌシで援護をし、空飛あきひ黒曜こくようへと変化していた。そのあいだ五奇いつきはすずめと対峙していた。

 すずめがこのスキを突いて動き出したからだ。妖魔王ようまおうの息子となれば、壱右衛門いちえもんと裏でなにをしているとも限らない。

 完全な現場判断だが、五奇いつきはそれよりも気がかりなことがあった。


(気のせいか? なんか、さっきよりコイツの力が増してる気がするぞ!?)


 すずめからの攻撃をけながら、五奇いつきがそんなことを考えていた時、麗奈れいながふと視界に入った。彼女は美珠みしゅ雅姫まさきに支えられていた。


(どうしたんだ? 両我りょうがさんもいないし……)


「おやぁ? よそ見なんて余裕じゃーん?」


 蹴りを仕掛けてくるすずめから距離を取ると、五奇は参弥さんびを構え直す。


「答えろ! なんであの日、俺の家に立ち入った!」


 今まで思っていた疑問をぶつけてみる。そんな五奇いつきに対し、すずめはたのしげに口元をゆがませた。


「なんでだっけ~? あっれ~? 誰かさんのせいだったよ・う・な♪」


 どこまでもはぐらかす彼に、五奇いつきはどうすべきか悩み……決意した。


(やってみるか……!)


 五奇いつき輪音りんね参弥さんびを同時に構え、唱える。


きん術式じゅつしき!」


 五奇いつき二対についの武器が変形していく。大きく、よりメカメカしくなっていく。


伍銘ごめい封魔刃ふうまじんぜろ!」


 その勢いのまま、五奇いつきは技を繰り出した。今までにない速度で射出しゃしゅつされたワイヤーは湾曲わんきょくしてけるすずめを自動で追尾ついびし捕らえ、輪音りんねの技が命中しすずめの腹部に突き刺さる。


「がはっ!?」


 吐血する彼に、五奇いつきは静かに呟いた。


「答えろ。あの日、なぜ……俺の家にいた? いや答えさせる!」


 五奇いつき輪音りんねで突き刺したまま、更なる技を放った。


封呪文ふうじゅもん改変解放! みず術式じゅつしき! 弐銘にめい暗雲の夢あんうんのゆめ!」


 これは、かつてルッツが五奇いつきに使用した技で幻覚系の一種だ。思考が誘導されやすくなるのだ。


「答えろ。あの日、お前が五十土いかづち家にいた理由はなんだ?」


 出血のせいもあるだろう。思考がまとまらないのか、予想以上にあっさりと彼は答えた。


「……だ、よ……」


 それを聞いた五奇いつきの目は大きく見開かれた。それを見てすずめが邪気しかない笑みを浮かべるとそのまま力を封じられ、意識を失った。

 力なく倒れる彼を受け止めると、五奇いつきは素早く拘束具を使い拘束する。動けず、転移もできないことを確認してから、仲間達の元へと合流すべく走り出した。

 見れば、今まさに攻防戦の真っ最中だった。あわてて加われば、壱右衛門いちえもんはなんと計十人の攻撃から逃れていた。


「な、なんなんだ!? この人は!? いや、人……なのか……?」


 五奇いつきの疑問に答えられる者は誰もいなかった。

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