第108話 顕現せしは

「な、なに!?」


 驚きの声をすずめが上げる。

 琴依ことえ術式じゅつしき退魔術式たいまじゅつしきからの派生系であるかげ術式じゅつしき影縫かげぬい。文字通り相手の動きを封じるこの技は、影が濃ければ濃いほどその性能は増す。

 輝也てるやのホスセリによる炎の壁の効果により、すずめの動きはより強固に封じられた。


「くっそ! 人間の! 分際で! !?」


 とてつもない暴露ばくろに、一瞬固まる五奇いつき達を見てニヤリと笑みを浮かべるとすずめは、挑発するような声色を出す。


「あっれ~? もしかして、当世とうせい妖魔王ようまおうに息子がいるなんて思わなかった~? ウケる♪」


「お前が、妖魔王ようまおうの息子だって? そんなやつがなんで……」


 やらしい笑いを浮かべると、すずめはたのしそうに続ける。


「知りたかったら~パパにいてみたら? さぁ、紹介してあげるよ! 当世とうせい妖魔王ようまおう"始まりは嘆きからファーストロア"!」


 その声に答えるように、亜空間に亀裂きれつが入る。そして、バラバラだった空間がいびつな形で再結合されていく。


「うわぁあああ!?」


 足場が揺らいだかと思ったら突如安定し出した。不思議に思っていると、輝也てるやがホスセリからアメノミナカヌシに再現体を切り替えて足場を安定させてくれたらしかった。


神禊かんばら君、ありがとう! 琴依ことえさんも大丈夫ですか!?」


 二人に声をかければ、輝也てるやは頷き、琴依ことえが答える。


「だいじょーぶ! 五奇いつきちゃんのかたきは逃がさないから!」


 そんなやり取りをしているとみんなが集まってきた。……両我りょうがを除いて。


「皆、いるか? 私と由毬ゆまり和沙かずさはいるが……おい蒼主院両我そうじゅいんりょうがはどうした!」


 齋藤の言葉に等依とういが答えようとした瞬間だった。


五月蠅うるさい〕


 野太く、それでいて威圧する声が響いてきた。声がしたほうへ全員が視線をやればそこには、禍々まがまがしい尻尾に異形いぎょうの足を生やした黒髪の男がいた。黒いオーラを身にまとった彼は静かに告げた。


蒼主院そうじゅいんか。久しいな〕


 ゆったりと話す男に向かってすずめが声を上げる。


「パパ!」


 父の助けを期待するすずめの姿に、五奇いつきの胸に何かが刺さる。だが、妖魔王ようまおうは静かに、告げる。


〔お前か。……好きにしろ。は眠い。退屈だ。暇つぶしさえできれば……なんでもいい〕


 ただ鎮座ちんざするだけの男は、それだけ言って欠伸あくびをする。戦う気は微塵みじんもなさそうだった。


(コイツが妖魔王ようまおう! なんてオーラだ!)


 動揺する五奇いつき達の前で、あのおきなが現れた。


妖魔王ようまおうよ、その退屈この藤波ふじなみに任せるが良い」


 壱右衛門いちえもんは静かに妖魔王ようまおうに語りかけると、ゆったりとした動作で五奇いつき達の前に出る。


「さぁ見てるがいい! これが! 藤波ふじなみ集大成しゅうたいせい! 最強のおによ! でるがいい!」


 壱右衛門いちえもんが手をかざし、自身の身体からだに黒いきりまとわせる。それは佐乃助さのすけ達の時と同様で。


「まさか降ろす気かよ!? おい、やべぇぞ!」


 鬼神おにがみが叫ぶ。その声色で察した全員が、動いた。

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