第107話 時は満ちた

弐銘にめい覇斬牙はざんが!」


 飛ぶ斬撃を放ちながら、五奇いつきはなおも距離を取っては攻撃をかわす、すずめと対峙していた。


(なんて素早いんだ! まるで読まれて……まさか、攻撃を読んでいるのか!?)


 そのことに思いいたった五奇いつきは、一旦攻撃をゆるめながら考える。


(どうしたらいい? ……父さん!)


 一方。スカーレットと対峙する琴依ことえ輝也てるやもまた、苦戦していた。彼女もまた素早く、そしてなにより力を奪われるのが辛い。


「うっひゃーこれはキツイねぇ~! 輝也てるやちゃんだいじょぶ~?」


 尋ねる琴依ことえ輝也てるやが短く答える。


「……あぁ。だが、これではじりひんだ」


 二人とも遠距離向きな上、どちらもメインは使い魔である神の再現体と式神しきがみだ。琴依ことえ退魔術式たいまじゅつしきを扱えるが、今使

 そして、五奇いつきとすずめもまた相性が悪いのは明白だった。そんな状況の最中だった。一陣いちじんの……かぜが吹いた。


「なんだこの風は? ……まさか!」


 その風と気配に五奇いつきは覚えがあった。思わず名前を呼ぶ。


李殺道りつーうぇい!? どうして……いや、どうやってここに!?」


 彼、李殺道りつーうぇいは静かに武器を構えスカーレットに向かって行く。


「俺の獲物だ。その女は」


 輝也てるや琴依ことえにそれだけ告げると、彼はスカーレットのみを狙い攻撃して行く。突然の乱入に困惑する琴依ことえ輝也てるやが声をかける。


「……五十土いかづちの援護に行くぞ」


「えっ……あ、そーだね!」


 二人はとりあえず彼にその場を任せることにした。なぜならこの場において、彼は保護対象であり攻撃目標ではないからだ。


 スカーレットと李殺道りつーうぇい。同じ赤い色の髪と瞳をした二人が……向かい合う。


 ****


 しばらくして。


「あーもう! うざったいなぁ!」


 すずめがようやく苛立いらだちを見せ始めた。三人を相手にするのは、いくら攻撃が読めても苦戦するようだった。


武流丸ぶりゅうまる! 五奇いつきちゃんの攻撃に合わせてねー!」


 琴依ことえの言葉通りに武流丸ぶりゅうまるが動く。そこへ輝也てるやからも援護が入る。


「ホスセリ。炎の壁、発動」


 すずめの周りに炎の障壁しょうへきが作られ邪魔をする。


「ああ! うざいうざいうざい! マジで怒った! お前ら……全員パパのにえにしてやるから!」


 そう叫ぶとすずめが振り子を振って周囲を振動させる。


(そういえば……なんでコイツ、精神攻撃をしてこないんだ? まさか! 対象は一人?)


 思えば、精神攻撃をしてくるとき、決まって彼は対象を絞っていた。そのことに気づいた五奇いつきは、輝也てるや琴依ことえに声をかける。


「すみません! 思い切り援護頼みます! 琴依ことえさん! 退魔術式たいまじゅつしきを!」


「りょーかいちゃん! まっかせて~!」


 琴依ことえは振動する中で床に手を置き、術式じゅつしきを発動させる。


かげ術式じゅつしき壱銘いめい影縫かげぬい!」

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