第105話 欠片

 鬼神おにがみ美珠みしゅに向かって大声おおごえで叫ぶ。


「俺様にありったけの回復をかけろぉおおおおおおお!!」


 その声は届いたらしく、美珠みしゅ数珠じゅずが淡く輝く。


術式じゅつしき肆銘しめい蒼の煌きあおのきらめき!」


 本来は癒しのじゅつの最大級だが、今回ばかりは違う。鬼神おにがみの力を回復させていくにつれて、百戦獄鬼ひゃくせんごくき身体からだが巨大化していく。


「なにが起こっているのだ!?」


 驚く灰児はいじに、鬼神おにがみが不敵な笑みを浮かべる。


「説明してる暇はねぇ! けてろ! うっかり……殺しちまっても知らねぇぞ!」


 大きくなった百戦獄鬼ひゃくせんごくきは、異形いぎょうの怪物に向かって行く。突進とかみなりをまともに受けるが、美珠みしゅの回復のおかげでダメージはすぐにないのと等しくなる。


百鬼びゃっき! このまま……殺してやれ」


御意ぎょい


 内側からこたえる声がして、鬼神おにがみの頬が自然とゆるむ。そうしているあいだにもぶつかり合う二体の怪物は、押し合い、互いに力をぶつけあっていた。


「いくぜ! 奥義おうぎ! 阿修羅逆鱗斬あしゅらげきりんざん!」


 彼女の声のままに、百戦獄鬼ひゃくせんごくきが右腕を一瞬離して、やいばへと形を変え、思い切り異形いぎょうの怪物の脳天をつらぬいた。


ぜろ」


 その言葉で、一気に内側から破裂し怪物は木端微塵こっぱみじんとなった。あまりのことに言葉を失う美珠みしゅと、たたえる拍手を送る灰児はいじに対し鬼神おにがみは無表情に天をあおいだ。


「これで満足かよ……藤波ふじなみ


 その声色はどこか沈んでいたが、普段の彼女をあまり知らない二人は察することができなかった。しばらくして、美珠みしゅに声をかける。


「おい、回復もういいぞ」


「あ、そ、そうでありんしな! 解除!」


 慌てて解除すると、美珠みしゅは疲れが来たのか座り込む。その様子を見て、灰児はいじあごに手をやり考え込む。


「うーむ、ここで少し休息するとしようか! 鬼神乙女おにがみおとめも疲れただろうしな! うむ! そうしよう!」


 一人でまたしても結論づける彼に、反論する気力などなく。鬼神おにがみもその場に座り込んだ。その時、百戦獄鬼ひゃくせんごくきが何かを手にして彼女の元へと帰って来た。


「あ? んだこりゃあ……宝石、じゃねぇな。欠片かけら?」


 困惑する彼女の内側から声が響く。


あるじよ。これはおに欠片かけらだ。いや、


 それだけ告げると、百戦獄鬼ひゃくせんごくき鬼神おにがみの中へと戻って行った。


おに……いや、悪魔あくま欠片かけらだと? 意味がわかんねぇんだが……)


 困惑する彼女は、だが、その欠片かけらを捨てることなく丁寧ていねいにしまう。その光景は誰も見ていなかったようだった。というのも、灰児はいじは周辺を見てくると言って出て行き、美珠みしゅ祓力ふつりょくの消費でぐったりしているからだ。

 かくいう鬼神おにがみも力を無理に使ったため休息は必要なので、少しだけ休むことにした。

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