第102話 牙王・售月

「そういえば、アナタ、ゲームが好きらしいわね? 乙女おとめから聞いたわ」


 何気なにげなくいてくるひつぎに、空飛あきひも素直に答える。


「はい! 特にホラーゲームが好みのものでございまして! それでよく鬼神おにがみ……乙女おとめさんに怒られております。はい……」


 そんな二人のやり取りを聞きながら、雅姫まさきがゆっくりと薙刀なぎなたを構えた。その様子で察した二人も警戒する。


何者なにもの?」


 雅姫まさきけば、それはゆったりとした動作で低級妖魔ていきゅうようま達とたわむれていた、派手な着物をまとった存在がこちらへ視線をやった。


「ほう? この售月しゅうげつを前にかような態度を取るか。人間に鬼憑おにつきに……半妖はんようよ」


「そういう貴方あなた半妖はんようでございましょう? 牙王がおう售月しゅうげつとやら。目的はなんなのでございましょうか!」


 いつになく鋭い視線をやる空飛あきひに、售月しゅうげつはつまらなそうに告げる。


半妖はんよう半妖はんようでも転生体てんせいたいはいらぬ。ほっするは……人間と妖魔との交わりにより生まれし半妖はんようよ」


 会話をする気がないことを理解した三人は、それぞれ戦闘体勢に入る。空飛あきひ二対についの短刀を構え、ひつぎ無偶羅将鬼むぐうらしょうきを呼び出し、雅姫まさき薙刀なぎなたるいを構え、それぞれ仕掛けた。


黒曜抜刀術こくようばっとうじゅつ! 双十字斬そうじゅうじざん!」


 最初にしかけたのは空飛あきひだ。飛び上がりながら斬撃を放つ。だが、售月しゅうげつ使役しえきする低級妖魔ていきゅうようま達のかずによりやいばが届かない。


「なら、これならどう? 将鬼しょうき!」


 無偶羅将鬼むぐうらしょうきが勢いよくこぶしを振り上げ、低級妖魔ていきゅうようま達を破壊していく。その合間あいまをぬって雅姫まさき薙刀なぎなたを振り下ろす。


術式じゅつしき伍銘ごめい舞砲列火まいほうれっか


 炎の弾撃だんげきを放つ雅姫まさき。だが、その攻撃は謎の障壁しょうへきはばまれた。


「つまらんのう。これでよく退魔たいまなどと抜かしておる。はぁ、素体そたいにもならぬし……死ね」


 售月しゅうげつは立ち上がると、指を鳴らす。それに呼応こおうしたように現れたのは……。


「なっ!? 人造妖魔じんぞうようまでございますか!?」


 人の手により人為的じんいてきに作られる妖魔ようま。それもまるで合成獣キメラのようなおぞましい姿で現れて、空飛あきひは思わず絶句した。


(トクタイの人造妖魔じんぞうようまとは違う。あれは無機物だけれど、これは……)


 ひつぎもその事に気づいたらしい。まゆをしかめて、不快そうに口を開いた。


「これ、くっつけたの? 人も、妖魔ようまも、何もかもを」


 その声色は冷たい。だが、售月しゅうげつは臆おくするどころかたのしげに告げる。


「だと言ったら? この售月しゅうげつの最高傑作最高傑作の一つよ。さぁ……嚙み殺せ」


 三つの口が生えた尻尾が三人を襲う。どうやら伸縮するらしく、自由自在に動いてこちらを追ってくる。


「くっ! こんなこと、ゆるしてたまるものでございますか!」


 空飛あきひ黒曜こくようへと姿を変える。人造妖魔じんぞうようまの攻撃をかわしながら售月しゅうげつに向かって叫ぶ。


「貴様みたいな半妖はんようなど、認めるわけにはいかぬ! 終わらせるぞ!」

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