第101話 散りゆくは

「このまま、されてたまる、ものかぁ!」


 叫びながら両我りょうがが折り畳み式の警棒を取り出した。


みず術式じゅつしき参銘さんめいあめいざない!」


 周囲に幻惑げんわくの雨が降り、仁ノ緒さとのおの動きが鈍くなるのがわかった。どうやら幻覚耐性は低いらしい。


等依とうい天大路てんおおじ! 今の内に畳みかけるぞ!」


「言われなくても! きん術式じゅつしき、解放! 弐銘にめい覇斬牙はざんが投舞とうぶ!」


 麗奈れいなが舞いのような動きで回転しながら飛ぶ斬撃を放つ。回転するごとに威力を増していくこの技は、見事に仁ノ緒さとのおに命中した。そこへ等依とうい火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきが畳みかけるように殴りつけ、地面に引き倒す。


「……行けますわ! このまま!!」


 麗奈れいなが近寄った瞬間だった。等依とういの叫びが響く。


麗奈れいなちゃん、危ない!」


 それは、こちらの油断を誘い確実に殺すための罠。内側に太い棘が刺さった花が現れ、麗奈れいなを包み込もうとした時、誰かが彼女の背中を力強く押した。


 そして、包み込まれた彼の声にすらならない呻きとともに花が閉じ、消えた。


「りょ、両我りょうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 両我りょうがが契約していた二体のおに達の姿が崩れて行くのがわかる。状況をのみこめない麗奈れいなとは対照的に、等依とういが今までにない怒りを見せた。


「よくも……わたしの兄弟を! 殺したなぁ!! 藤波ふじなみぃぃぃ! 火雀かがら氷鶫ひとう! 合身一体ごうしんいったい! 氷火ひょうか!!」


 あの演習場エンジニアリング琴依ことえからもらったヒントで編み出したわざ陰陽いんようを極限まで近づける秘奥義ひおうぎ、二体のおにの合体を行うとそのまま、氷と火、両方をまとったつるぎ顕現けんげんさせ仁ノ緒さとのおを真っ二つに斬り裂いた。


 一刀両断された仁ノ緒さとのお身体からだが崩れて行く。それを見守ることなく、等依とうい両我りょうがが包まれた花を探し呼びかける。


両我りょうが! 両我りょうが! 返事をしてくれ! 両我りょうが!」


 だが、反応は帰って来ない。そのかわりに周囲に消えかかったおおかみの姿をした雷狼応鬼らいろうのおうき氷狼轟鬼ひろうのごうきが近寄ってきた。

 それを見て、流石さすがに察した等依とういは力なくうなだれる。


「……等依とうい、さん……。あ、あ、あぁぁぁぁ! わたくしは! わたくしはなんておろかな!」


 うろたえ涙する麗奈れいなに対し、等依とういは静かに告げた。


「……現実リアルっスよ……。これが……」


 そんな二人の周囲を二匹のおおかみ達がゆっくりと行き来し、そして天へと昇って行った。あいだに淡い光を挟みながら。


 しばらく動けずにいる等依とうい麗奈れいなの耳に、かき消えそうな声が響いてきた。


「……これで……終われます。……どうか……とめ……て」


 消え入りそうな声は仁ノ緒さとのおの声だ。その声からは先程までの敵意は感じられない。ただ……。


「終わりたかったら……勝手に一人で終われよ! 両我りょうがを奪ったお前を……ゆるすものか! 止める? いいや、壊してやるよ……藤波ふじなみ!」


 今までにないほどの怒りに支配されるのを感じながら、等依とういはどこか冷静な頭で考える。


(裏で何が起こっている?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る