第100話 仁ノ緒

まったく、まさかそろいもそろって蒼主院そうじゅいん殿方とのがたとは!」


 文句をれる麗奈れいなに対し両我りょうがが反論する。


「なにか文句でもあるのか! むしろありがたく思え!」


 喧嘩腰の二人を見つめながら、等依とういは周囲を警戒する。


「ここ……オレちゃん達だけみたいっスね……。どうするんスか?」


 けば、二人はしばらくにらみ合った後……同時に前を歩き出した。


「あら? 奇遇ですこと。わたくしもそちらに向かう予定でしてよ?」


「奇遇だなわたしもだ。邪魔はするなよ、天大路てんおおじ!」


 どうやら二人で先導するつもりらしい。等依とういはため息をくと、後に続いた。


 ****


 しばらくして嫌な気配を感じ取り、両我りょうが麗奈れいな等依とういの三人は同時に足を止めた。そこはひらけた座敷のような空間で、藤色の髪をした女性が座っていた。


「お待ちしておりました。蒼主院そうじゅいん方々かたがたが名は仁ノ緒さとのおと申します。藤波ふじなみ家の……次期当主でございます」


 そう告げて深々と頭を下げると、仁ノ緒さとのおはゆっくりと立ち上がり三人に視線をやる。


「それでは……殺し合いと、参りましょう……!」


 敵意を込めた声色で、仁ノ緒さとのおが縄を取り出した。その姿に三人は警戒心を跳ね上げる。


が身に宿すは……最強の妖魔ようまの一角なりて! さぁ、身を振るわせなさい!」


 途端に彼女の姿が変わって行く。身体は倍以上になり、全身からつたと花が咲き乱れて宙に浮く。


「なっ!? 妖魔ようまに転じたというのか!? そんなことが!?」


 驚愕きょうがくする両我りょうがの横で、麗奈れいなが鉄扇・白金猫しろがねびょうを構え、等依とういおに達を呼び出した。


「……っ! 来るっスよ、両我りょうが!」


「わ、わかっている! おにども出ろ!」


 両我りょうが雷狼応鬼らいろうのおうき氷狼轟鬼ひろうのごうきを呼び出し、戦闘体勢に入った。それを待っていたのか……仁ノ緒さとのおの攻撃が始まった。


藤波流ふじなみりゅう……大千本槍だいせんぼんやり!」


 彼女の後方に咲いていた花から、花弁はなびらが分離し、千に分裂してまさしくやりのように飛んできた。その威力は凄まじく、慌てて張った等依とういの防御結界をたやすく突き抜けてくるほどだった。


「がはっ!」


等依とうい! く、いい度胸だ……おにども! やれ! やれぇ!!」


 結界を破られたダメージをもろに受けた等依とういを支えながら、両我りょうがが指示を出す。


「……わたくしも行かせてもらいますわよ! きん術式じゅつしき、解放! 壱銘いめい斬葬ざんそうらん!」


 得意の技で仁ノ緒さとのおふところめがけて攻撃を放つ麗奈れいなだったが、その攻撃はたやすくはじかれた。そのスキを突いて、雷狼応鬼らいろうのおうき氷狼轟鬼ひろうのごうき仁ノ緒さとのおに同時に殴りかかる。


 だが。


「……ふふふ。ぬるい……ぬるいわ人間ども! それで我らに……敵うものかぁ!!」


 仁ノ緒さとのおだった妖魔ようまは、激しい攻撃を繰り返す。舞うように、花を咲かせてはやいばとして飛ばしてくる。


 絶体絶命の危機だった。

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