第99話 流転の境界

 神社に入った途端、景色が一変した。静かで美しくも慎ましい神社の面影はなく、そこは言わば亜空間。

 周囲に不穏な妖気が流れ、空は血のような太陽の光に照らされ、神社内はその構造が無理矢理つくりかえられているようで、まるで迷宮のようだった。


「この美しき神社でなんという忌まわしい行為を! おのれ藤波ふじなみ家め!」


 憤慨ふんがいする両我りょうがの声には誰も答えず、ただ警戒態勢を維持していた。……その時だった。


「ふむ。予想より早かったな蒼主院そうじゅいん。では、計画を早めるとしよう」


 声がした方を全員が見れば、藤色の着物を纏ったおきな壱右衛門いちえもんがいた。


が一族の悲願ひがん、果たさせてもらう。藤波流奥義ふじなみりゅうおうぎ


 その声と同時に、地面が揺れ身体からだが浮く。


か!? 皆、気をつけろ!」


 齋藤の声が響くが、気付けばその声は遠くなっていき、その場の全員が転移させられていた。


 ****


「うわっと!」


 五奇いつきが地面へ着地したのと同時に、同じ場所に転移させられたらしい……輝也てるや琴依ことえと遭遇した。


「あー五奇いつきちゃんと輝也てるやちゃーん。まっさかおんなじとことはね! びっくり!」


 服に着いた泥を払いながら呑気なことを言う琴依ことえに対し、輝也てるやが静かに答える。


「……俺達だけか。ここは」


「そうみたいですね。んと、じゃあ……どう、します?」


 おそるおそる五奇いつきけば、琴依ことえが口を開く。


「確かー五奇いつきちゃんて妖魔探知ようまたんちできるんしょ? なっら~先導よっろー!」


「……異論はない。俺も探知たんちは不向きだ。五十土いかづち頼む」


 二人に頼まれ、五奇いつきは了承すると輪音りんね祓力ふつりょくを込める。


「……前方には……気配なしです。進みましょう」


 ****


「あひゃあ!?」


 着地に失敗した空飛あきひを、無偶羅将鬼むぐうらしょうきが受け止めた。


「大丈夫?」


 ひつぎに声をかけられ、空飛あきひが答える。


「あ、はい! 感謝いたしますです! ひつぎさん!」


 明るく答える空飛あきひに、ひつぎがわずかに微笑む。


「二人。周囲確認求む」


 そんな二人を見つめながら、雅姫まさきが声をかけてきた。どうやら、この空間にはこの三人だけのようだった。視線を交えると頷き合い、歩きだした。


 ****


 鬼神おにがみ灰児はいじ美珠みしゅの三人は各々周囲を見渡す。


「おい、無礼野郎と……花魁おいらんみたいなやつ! なんかいたかよ?」


鬼神乙女おにがみおとめよ、誰のことを呼んでいるのだ? ここにはわたし美珠みしゅだけだが!」


 灰児はいじまと外れな指摘に、鬼神おにがみが舌打ちをする。そんな二人の様子に美珠みしゅが慌ててフォローする。


「お、落ち着きなんし! ここにはわっち達以外いないようでありんす! 他を調べたら良いかも?」


「そーかよ! 行くぞボケ!」


 先陣を切ろうとする鬼神おにがみ灰児はいじが引き留める。


「君が先に行くのは私の良心りょうしんとがめるのでな! ここはこの妖魔剣ようまけんゼルギウスを持つが先導しよう!」


良心りょうしんってなんだよ! ……ちっ、ならさっさと行けや!」


 二人のやり取りをハラハラした様子で見守る美珠みしゅは胃が痛むのを感じた。

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