第98話 いよいよ

 暗い闇の中で彼はいた。とり達のさえずりだけの世界で、李殺道りつーうぇいを名乗る青年は瞑想めいそうしていた。


 一人きりの世界で、彼は自分を追う者達の気配を感じ取っていた。その中には、


「……終わらせる。俺が……全てを……」


 静かに決意を新たにし、彼はバタフライソードの手入れを始める。決戦の時に備えて……。


 ****


「今日はここら辺を見回りですね」


 五奇いつきが口を開くと、横にいた等依とういうなずいた。


「そうっスね~。ここからだと、黒樹くろき神社とか黒樹くろき市長邸とかあるっスね~」


 すっかりいつもの等依とういに戻ったことに安堵しながら、五奇いつきが頷き返す。


「そういえば……市長邸もだけど、神社にも行ったことあんまりないですね……。黒樹神社くろきじんじゃって有名で大きいけど、家族と住んでた家からは距離があったから……」


「そーなんか。ウチはまぁ、比較的関わりあったっスからねぇ。姉さんと両我りょうがとかとよく借りだされたもんスわ~」


 等依とういの言葉で、五奇いつきはずっと気になっていたことを聞くか悩み……やめた。


人様ひとさまの家のことを聞くなんて野暮だもんな……。空飛あきひ君じゃあるまいし……)


 しかし、その思考は等依とういにバレていたらしい。彼はにこやかに五奇いつきに向かって声をかける。


「ウチのきょーだいのことっしょ? まぁ、普通に考えたらありえねーんすけど、十人は超えてるっスね」


 予想以上の人数に、五奇いつきが思わず大声おおごえを上げた。


空飛あきひちゃんはリアクション薄かったっスね~。いてきたわりに『あ、昔みたいでいいでございますね』とか言ってたわ~」


いたのかよ空飛あきひ君! そしてリアクション!)


「ん? 五奇いつきちゃん……なんかさ、おかしーかも」


「そりゃ、兄弟が十人以上はおかしいですよ!」


 五奇いつきが答えれば、等依とういが苦い顔をしながら、続ける。


「違うっつーの。いや、確かにおかしいんだけど。神社! なんか、気配がおかしいっス!」


 等依とういに指摘されて、五奇いつきもようやく気が付いた。神社から異様な気配が……いや、違う。あの日、藤波ふじなみ一族のさとで感じ取った気配がただよっていたのだ。


等依とうい先輩!」


五奇いつきちゃん、連絡するっスね! そいでオレちゃん達は……」


 ひと呼吸置いて、五奇いつきが静かに告げる。


「他の二人と、教官達と合流しましょう!」


 二人は行動指針を決めると動き出した。


 ****


 数分で包囲網が組まれた。Aチーム、Cチームこと緋雲あけくも、そしてEチームが神社に突入。BチームとDチームは市長邸の警備に回ることになった。


「いいか貴様ら! 気を抜くな! 今回は九十四期総力戦だ! 指揮は私がとる!」


 齋藤の有無を言わせぬ迫力にされたのと、あの時のリベンジに燃えるメンバー達は誰も反論しなかった。


「よし! 神社内部に、突撃!」

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