第95話 模擬戦闘その二と過去

 雅姫まさきとペアになった鬼神おにがみは、彼女をにらみつけたまま動こうとはしなかった。だが、雅姫まさきほうまったく気にしていないらしく声をかけた。


鬼神おにがみの者。貴女との技術のやりとり願う」


「……技術ってなんのだよ? 俺様は百戦獄鬼ひゃくせんごくきしかいねぇーんだぞ!! 技術もへったくれもあるか!!」


 大声を上げる鬼神おにがみに対し、雅姫まさきは首を横に振り答えた。


いなわれ思う……いえに伝わりし秘術の応用、貴女なら可能と判断。いかがか?」


 彼女の提案に、思わず鬼神おにがみは目を丸くする。そんなことなどかまわず、雅姫まさきは続けた。


が一族は代々武家だいだいぶけであり、退魔たいまの者。故に……おにとも幾度いくどあらそった。そこからた秘術、扱える者、が血族におらず。故に、鬼憑おにつきならば可能ではないか? と思いいたった次第」


 ひと通り彼女の話を聞いた鬼神おにがみは、口角を少し上げて……返事をした。


「なるほど? ようするに、いらねぇもんやるってか? ……いいぜ、もらってやるよ……ただし、てめぇの戦闘技術も盗ませてもらうぞ! こうなったらよぉ!!」


承知しょうち薙刀なぎなたるい抜刀ばっとう!」


 武器を抜いた雅姫まさきに対し、鬼神おにがみはファインディングポーズを取ると、二人は動き出した。


 ****


「にゃー。みぃ~んなやってるねーん? ねぇ等依とういちゃん?」


 琴依ことえ等依とういに声をかけると、彼は肩をピクリと揺らしながらうつろなひとみ実姉じっしを見つめる。


「……等依とういちゃんさー。大兄様おおにいさまに言われたことおっぼえてる~?」


 琴依ことえが尋ねれば、等依とういは頷いた。それは、等依とういの体質が退魔術式たいまじゅつしきことがわかり、逆に琴依ことえに本来蒼主院そうじゅいんの女性にはないはずの高い祓力ふつりょく退魔師たいましとしてのさいがあると発覚した時のことだ。


 二人はただでさえ天大路家てんおおじの血筋な上、さらに言えばかつては忌子いみごであった双子でもある。処遇しょぐうをどうするか? 先代当主を筆頭に頭を悩ませていた時、進言したのが当時の次期当主に内定していたルッツこと輝理かがりだった。


『僕に提案があります。等依とうい君は式神しきがみ使いとしての才覚はとてつもないもの。そちらを伸ばせば式神しきがみ使いとなりましょう。琴依ことえ君に関しては、僕の元で修行をさせましょう。この才覚ももったいない。それになりより、今時いまどき……若い才能を潰すのは、古いでしょ?』


 男尊女卑だんそんじょひも根強い家系かけいの中で、歴代でもっとも天才と呼ばれた男からそう言われてしまえば、誰も反論ができなかった。こうして、等依とうい式神しきがみ使いとしてきわめることになり、琴依ことえは男系しかおにと契約をできないしきたりゆえに、輝理かがりが用意した人造式神じんぞうしきがみである人形、剛徹武流丸ごうてつぶりゅうまるを与えられ遅咲きながら退魔師たいましとなるべく修行することになったのだ。


 その過去を思い出して尚更、等依とういが暗い顔をする。そんな彼に琴依ことえが告げる。


「ねぇ等依とういちゃん? ワタシちゃんさー気づいちゃったんだよねぇ……。武流丸ぶりゅうまる使ってて思ったんよ! これ、等依とういちゃんが習得したらヤバくね!? って技をさ!」


 どこまでも明るく弟と向き合う姉の姿が、まぶしかった。

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