第93話 緋雲

(上……トクタイの上って一体?)


 再び静かになった待機室で、五奇いつきは考えるが思考が上手くまとまらない。教官への不信感、等依とういの態度、サーシャからもたらされた情報で突如とつじょ出て来た牙王がおう售月しゅうげつという謎の存在。

 ここのところの情報量の多さに辟易へきえきしていたのもあるだろうが、とにかく、なにがどう繋がるのかまるでわからない。


 黙りこくっていると、右肩を突然小突かれた。驚き、そちらへ視線をやれば鬼神おにがみが思ったより近くにいて更に驚いてしまう。


「お、にがみさん……?」


「……五奇いつき等依とういのヤツの様子が、どんどんおかしくなってっぞ?」


 言われて等依とういほうを見れば、彼は静かに遠くを見つめていた。その目に、光はない。異様な雰囲気にしり込みしていると空飛あきひ等依とういに声をかけた。


等依とういさん? どうなされたのでございますか? お身体からだの具合でも?」


「……あ、いや。そーいうわけ、じゃ……」


 言いよど等依とういを不思議そうな顔で見つめる空飛あきひに、それを見守る五奇いつき鬼神おにがみ。その静寂せいじゃくを打ち破ったのは……突然の来訪者達だった。


「やほー? 予想通りだね~等依とういちゃん? それからおっひさ~でもないかー? Eチームの諸君しょくん、ワタシちゃん達がきったぜい? ドヤ!?」


 その声のぬし琴依ことえだ。彼女はマイペースに伸びをしながら室内に入るなり、等依とういの近くに寄って行くと彼を思い切り抱きしめた。突然の出来事に目を見開く等依とういに対し、彼女は先程とは打って変わり優しく落ち着いた声色で語りかけた。


「……等依とういちゃん。ウチらはウチらのやり方で生きてこーよ? 確かにおかーさまの事は辛いし、等依とういちゃんの体質も辛い。だっけ~ど、ね? ウチら今、?」


 琴依ことえの言葉に等依とういがハッとした顔をするのが、五いつき達からもわかった。


等依とうい先輩! 俺達……じゃ、力になれませんか? 役立たずですか? 俺は……俺は! もう等依とうい先輩も鬼神おにがみさんも空飛あきひ君も! 家族、だから! これからもやって行きませんか!?」


 自然と言葉があふれ、思いのたけ懸命けんめいに伝えてくる五奇いつき等依とういの目に少しだけ光が宿る。それを黙って見守っていたらしい、緋雲あけくもの他の三人も室内へと入って来た。口を開いたのは、麗奈れいなだ。


「……まぁ。同じ天大路てんおおじの血を引く者として、貴方達あなたたちについてはわたくしの中では許容範囲ですし? 少しくらいならお力になって差し上げてもよろしくてよ!」


「はっ! えらそーに言いやがって……! 等依とういはしらねーが、俺様達に力借りる覚えなんてねぇぞ!」


 鬼神おにがみが反論すれば、喧嘩腰になりそうな麗奈れいなを制止して一歩前に出たのは雅姫まさきだった。


「……理解求む。我ら、補い合う必要有と判断。理由、血と技術、なり


 言い切ると頭を下げる雅姫まさきの態度に、鬼神おにがみは困惑し麗奈れいな憤慨ふんがいする。


「どうしてわたくし達が頭を下げなければならなくって!? 確かに、同じきん術式じゅつしきを扱う者として黙っていられなかったのは事実ですわ? ですけれど!」


 声を張り上げる彼女に対し、美珠みしゅがなだめながら告げる。


「わっち達も伸び悩んでおりなんし。ここは互いに手を取り合う状況と思うでありんすよ?」


「でーすーかーら! わたくし達の方がランクも上なのです! なぜこうべを垂れたのかといているのですわ!」


 賑やかな彼女達に、等依とうい以外の三人は困惑するしかなかった。

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