第92話 不信感

空飛あきひ君、帰って来るの遅いですね……」


 空飛あきひがサーシャの元へ向かってから数時間。五奇いつき達はトクタイ本部、Eチームの待機室にいた。


「……そうっスね……」


 いつもより口数の少ない等依とういの代わりに、鬼神おにがみが口を開く。


「色々あるんじゃねーの? 半身っつーことは、まぁ身内みてぇなもんだからな。積もる話もあんじゃね? まぁ急をようする話っつーのは引っかかるが……」


 それ以降、会話は続かなかった。なんとも言えない沈黙が三人を支配する。


(き、気まずいな……。ていうか、鬼神おにがみさんはともかく……等依とうい先輩、最近様子がおかしい、よな?)


 等依とういほうを盗み見れば、彼は省エネモードの火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきを交互に撫でていた。その表情からは何も読み取ることは出来ない。

 静かな室内に、しばらくして齋藤とともに空飛あきひが入って来た。真剣な眼差しで、椅子に座っていた三人の方を見ると彼は口を開いた。


「サーシャから聞いた話をお聞きいただきたく存じます。はい」


 ****


 一通り空飛あきひの話を聞いて、五奇いつきが声を上げる。


「あの……この情報は、トクタイとしては?」


い質問だ五十土五奇いかづちいつきよ。全ての部隊及び隊員に伝達されている。そして、上層部会議の結果、我々EチームはAチーム、Cチームと分担して藤波ふじなみ家を徹底的に追うことになった」


 そこまで聞いて、鬼神おにがみが今度は齋藤に尋ねる番だった。


李殺道りつーうぇいはどーすんだよ? 最初はアイツを探すのが目的だっただろうが」


 き捨てるように彼女が言っても、齋藤はいつもと変わらない態度で答える。


「それも引き続き調査を行う。少し目的は変わったが、な」


 含んだ言い方をする齋藤に、空飛あきひが手を上げ質問する。


「あの、それはどういう意味でございましょうか? はっ! というか、そういえば痕跡こんせきとは言われましたがその肝心の目的が不明でございました!?」


 彼の言葉に他の三人もハッとした顔をする。確かに、痕跡こんせきを探す理由を……目的を理解していなかったからだ。

 全員の視線が齋藤に集まれば、彼女はあっけらかんとした態度で告げる。


「目的を告げなかったのはわざとだ。信頼していなかったのではないぞ? ただ……上との兼ね合いが……な。とにかく、今回からは藤波ふじなみ家の行方の捜索そうさく李殺道りつーうぇいの……保護が目的となる! 以上!」


 力強く五奇いつき達に向かってそう告げると、齋藤は部屋を後にしようとする。それを止めたのは……等依とういだった。


「教官。……上って、どこまでのことっスかね?」


 いぶかしげに等依とういに齋藤が苦い顔で言い切った。


「今の貴様らでは辿り着けん。それに……知らない方が良いこともあるだろう」


 どこまでも含んだ言い方をする齋藤に対し……五奇いつき達が不信感を抱くのも仕方のないことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る