第91話 目星

「それで? 急をようする話というのはなんでございましょうか?」


 空飛あきひがサーシャに尋ねれば、彼女は不敵な笑みを浮かべてゆっくりと口を開いた。


「君達、あの藤波ふじなみ家とかいう連中のところに行ったんだろう? それについてさ……ちょっと思い出したことがあってね?」


 含んだ言い方をするサーシャに、空飛あきひ小首こくびかしげながらく。


「ん? 何故なにゆえそのことをご存じなのでございましょう?」


「……くのはそこなのかい? まぁいいけどさぁ。元々、僕がいた孤児院が藤波ふじなみ家が経営していたところらしくてね? それでここの連中に色々聞かれたから、わかったって感じかな? で、さ。ねぇ? その孤児院に……僕達ほどじゃないけどがあったって言ったら、どうする?」


 サーシャの言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。空飛あきひは脳内で彼女の言葉を復唱し……驚きの声をあげた。


「そ、れはもしや……にのまえすずめとか言う妖魔ようまの事でございましょうか!?」


 食い気味にけば、サーシャは困惑しながら首を横に振った。


「あ、いや? そのすずめとかいうのは知らないな。僕が知っているのは……牙王がおう售月しゅうげつとか名乗ってるヤツの事だよ?」


 牙王がおう售月しゅうげつ。聞き覚えの無い人物の登場に、空飛あきひは思わず言葉を失う。


「それは……つまり。藤波ふじなみ一族にはにのまえすずめという妖魔ようまだけではなく、別の……その、半妖はんようも絡んでいるということでございましょうか?」


 ****


 黒樹くろき市内、某所ぼうしょにて。


「して? 壱右衛門いちえもんよ、媒体者ばいたいしゃ共がかの者達の手に渡ってしまったぞい? どうするつもりでな?」


 派手な装飾の着物に、こげ茶色の足元まで伸びた長髪を使役しえきしている低級妖魔ていきゅうようま達に整えさせながら、その人物……牙王がおう售月しゅうげつおきな壱右衛門いちえもんに尋ねれば彼は静かに茶を飲みながら答えた。


「責めるか、半妖售月はんようしゅうげつよ。たったの四体、失ったところでどうということもあるまいよ。


「たったのだと……? この售月しゅうげつりすぐった四匹であったのだぞ?」


 鋭い目つきでにらみつける售月しゅうげつに対し、壱右衛門いちえもんは特に気にするふうでもなくあっさりと告げた。


「くどい。そんなに惜しいのであれば……自力で取り戻して来たらどうだ?」


 そう言われてしまえば、售月しゅうげつはおし黙るしかない。確かにその通りだからだ。


「……ふん」


 售月しゅうげつ不貞腐ふてくされたのか、視線を壱右衛門いちえおもんからはずし、近くにおいてあるタブレットにれた。


「まぁいわ。素体そたいの目星はついておるのだ。はよう手に入れたいものよ……くくく」


 邪気しかない笑みを浮かべると、リストを眺める。次の媒体者ばいたいしゃ候補である……李殺道りつーうぇいのリストを。

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