第90話 業と二人

 その頃。自室で本を読んでいた等依とういは、ため息をいた。をルッツから聞いてから、どうにもいつもの自分になりきれない。


「……蒼主院そうじゅいんごう……か」


 ルッツから……いや、一番目の兄、輝理かがりから大まかな話を聞いた。鬼神おにがみ家に先祖がしたことそして……。

 だからだろう。いやでも自分を卑下ひげし……辛くなる。


「……退魔術式たいまじゅつしきを使えない体質であるわたしにできることは……あるのだろうか?」


 普段の口調ではないの自分に、面白みのない自分に……等依とうい苦笑くしょうしながら本を読む手を止め、ベッドへ入った。

 

 ****


 一方。フリーホラーゲームを自室でプレイしていた空飛あきひのスマホに着信があった。


「ん? なんでございましょうか……?」


 プレイする手を止め、スマホを手に取り見てみると齋藤からだった。


(教官から直接メッセージなんて……なんだろう?)


 不思議に思いながら、メッセージを開くとそこには一言こう書かれていた。


日暮ひぐれサーシャが面会を希望しているとのことだ』


 その字面じづらを見た空飛あきひは、すぐに返信をする。答えはすでに決まっていた。


『いつ面会に行かせていただけますでしょうか?』


 そうメッセージを返すと、空飛あきひは再びゲームに没頭ぼっとうした。


 ****


 翌日。

 他のメンバーに事情を話した空飛あきひは、単身サーシャの元へ向かうことにした。思ったよりも早くの面会に、空飛あきひは驚いたが、急をようするということで特別に許可が下りたのだ。

 収監所はトクタイ本部の地下にある。

 長いエレベーターに乗り込み、案内役とともにサーシャが収監されているろうまで向かう。無機質な壁に、みょうな静けさが辺りを包んでいた。


(ホラーゲームというより、サイコゲームのようでございますね?)


 不謹慎ふきんしんながら、そんなことを考えてしまう。いや、無理矢理にでもそんなくだらないことを考えないと、この空気に飲まれそうだったのだ。


(……ここは、気持ち悪い妖力ようりょくを多く感じる……不快でございますね)


 自身の半身がそんなところに身を置いていると思うと、余計に複雑な心境になる。そう思っているうちに、目的地にたどり着いた。


 看守監視の中で、いよいよ自身の半身、サーシャと……対面した。彼女は白い服を着用し、両手に拘束具を着けられた状態で、椅子に座っていた。


「やぁ……? 会えてうれしいよ……」


 相変わらず空飛あきひをそう呼ぶ彼女を気にすることもなく、彼はアクリルばんごしに会話を始めた。特殊なじゅつが組まれたこのいたが、彼女との距離を示しているようで、空飛あきひの心はざわついた。


「……サーシャ。一応、今の僕には空飛あきひという名前がございましてですね……?」


「知ってる。でも、僕も黒曜こくようなんだからいいだろう?」


 嫌味いやみも含んでいるのだろうか。そんなやり取りから、二人の会話は始まった。

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