第88話 わかれて

「……みぎわ、様……」


 五奇いつきが小さく言葉を漏らせば、みぎわが穏やかに微笑む。そして、話を続けた。


「ありがとう五奇いつき殿。……さて、わしのことはここら辺にしておいてじゃな。退魔師たいましであったはずの藤波ふじなみ一族がなぜ、かようなことをし出したのか? それはのう……鬼神おにがみ家の存在じゃよ」


 ガタリと鬼神おにがみひつぎが椅子を揺らしたのがわかった。二人とも真剣な眼差しでみぎわの言葉を待っている様子だった。ゆっくりうなずくと、みぎわがはっきりと告げた。


鬼神おにがみ家という……ある意味最強の人造妖魔じんぞうようまを造り出されたことで、藤波ふじなみ一族は退魔師たいましとして衰退すいたいしてのう? そして……」


おろかにも、二番煎にばんせんじにしかならんにもかかわらず、実験をし出したということか!」


 椅子から立ち上がり、大声おおごえを上げる両我りょうが等依とうい空虚くうきょひとみで見つめる。わずらわしそうにひつぎが口を開く。

 

「……うるさいわよ、両我りょうがみぎわ様のお話を区切らないでくれない? ……みぎわ様、続けてくださいな」


 そう彼女が言えば、両我りょうがが珍しく黙る。珍しい光景に思わず灰児はいじが声を発した。


「珍しいな! ひつぎに負ける両我りょうがとは! うむ、よくわからないが、たまには悪くないな! っと失礼した! 続きをどうぞ!」


 そんな光景に微笑むみぎわに変わり、ルッツが話を続ける。


「さて。みぎわ様からの説明はこれでいいかな? 妖魔ようま藤波ふじなみ一族については今の説明をもとに調べてみよう。次が……おそらく一番の謎だろう。李殺道りつーうぇい藤波ふじなみ一族だね」


「……そうだな。正直言ってまるでわからん……。そこで提案がある。この三つをそれぞれのチームで受け持つというのはどうだ?」


 齋藤の提案に、ルッツが頷いた。


「そうだね。そうしようか? じゃあ……」


 ****


「俺達は、李殺道りつーうぇい藤波ふじなみ一族の関係について……か」


 さとから抜ける道を齋藤の運転する車の中で、五奇いつきが呟いた。その声に反応したのは空飛あきひだった。


五奇いつきさん、よろしいのでございますか? その、かたきほうを追いたいのでは……?」


「はは。正直……あるよ? でもね……俺は……なりたいものが、あったんだ。それは……かたき執着しゅうちゃくする姿じゃないんだ……。だから……その……」


 歯切れの悪い五奇いつきを珍しく鬼神おにがみがフォローした。


空飛あきひ、そこらへんにしとけ。……色々あんだろうよ」


 珍しい気遣きづかいに、五奇いつきが小さく笑った。すると、今までずっと黙っていた等依とういが口を開いた。


「……空飛あきひちゃんこそ、玉髄ぎょくずい、置いてきちゃってよかったんスか? お友達なんしょ?」


 そう問われた空飛あきひは、少し視線を彷徨さまよわせながら答えた。


「……ああなってしまっては、どうしようもなく……。その、救うためにもまずは敵を知りませんと。はい」


「……そう、っスか」


 微妙な空気に包まれながら、彼らを乗せた車は黒樹くろき市内へと入って行った。

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