第85話 思わぬ再会

 その頃。

 さと探索たんさくしていた等依とうい空飛あきひに、残りのAチームと緋雲あけくものメンバーは屋敷の奥、暗くよどんだ空気の中にいた。

 そこは窓もなく照明もなく、真っ暗な大部屋おおべやだった。

 先を行く齋藤が、手にしていた懐中電灯をけ辺りを照らす。


「なっ……んでございましょうか……これは……」


 不快さで声が震える空飛あきひの横で、麗奈れいな憤慨ふんがいしながら声を上げる。


「おそらくは、というところかしら? 妖魔ようまを無理矢理結び付けた先……その末路まつろがこれということなのでしょう。まったく! ゆるせませんわ!」


 目前もくぜんに広がるのは、苦悶くもんすえであろういびつに折れ曲がった体勢のけものともひととも取れない骨の山。そのどれもが、錆色さびいろに染まっている。


「……つまり……あの虎雷雅こらいがとか言ったか? その連中もいずれこうなると言うのか? だが、わからん! この不快極きわまりない藤波ふじなみ一族の所業しょぎょう蒼主院そうじゅいん、どう繋がりがあるというのか!」


 両我りょうがの言葉に答えたのは齋藤だった。


蒼主院両我そうじゅいんりょうがよ。貴様、次期当主なのであればわかるはずだが?」


「オレちゃんもわかんねースけど……両我りょうが。もしかして……まだんスか……?」


 いぶかしげにいたのは等依とういだ。心なしか声に覇気はきがない。そんな彼に対し、両我りょうががゆっくりと口を開く。


「……あぁそうだ。だから……知らん。わたしは……知るべきなのだろう。いや、知らねばならぬ!」


 両我りょうがが意気込んだ時だった。空飛あきひが突然、大声おおごえを上げた。


「な、なんということでございましょうか!!」


 驚くその場の全員の視線を無視し、空飛あきひは骨の山をかきわけてひときわ大きな骨の前へと向かい、その骨にれた。


貴方様あなたさまは……いやお前は、玉髄ぎょくずいではないか……。その身になにがあったのだ……?」


 玉髄ぎょくずいと呼ばれた骨の口がゆっくりと開き、答えた。


【おお……貴殿きでんは、黒曜こくようではござらんか。見ての通り、拙僧せっそうは……か弱き人間をうつわにし融合させられてしまったのでござるよ……。が意識こそあれど、うつわとなりし人間のほうは……もう……】


 はっきりと聞き取れる声だった。その声色はどこまでも悲しそうでむなしそうだった。そんななれの果てのモノに、空飛あきひ黒曜こくようとして尋ねる。


「聞かせてくれるか? ここで起こった悲劇を……全て……」


勿論もちろん拙僧せっそうにわかることであればなんでもだ、きみよ】


 色々な部分が癒着ゆちゃくして身動きが取れないらしい玉髄ぎょくずいの前に全員が集合する。それを確認することはできるらしい、玉髄ぎょくずいがゆっくりと話し出した。


【ここでは、孤児となりし人間の幼子おさなご達を引き取っておったようでな? そこで……おぞましき行為……妖魔融合ようまゆうごうの儀をり行っていたようでござる。呼び出される妖魔ようまは知性もくらいも無関係に……相性すら無視してのようでござった。そして……融合させられし者達は、拙僧せっそう達を内側に閉じ込め、必要な時だけ消費したのでござる……。しかし、妖魔ようまとは不可思議なる存在故そんざいゆえに……】


 そこで一端区切ると、なげきを含んだ声色になる。


ゆえに、人でなくなり……妖魔ようまですらなくなり……。かように、こうしてびた骨と化したのでござるよ……。人間は勿論もちろん、融合させられた妖魔ようま達もそのたましい喪失そうしつしておるようでな。拙僧せっそう以外に、維持しておる者は感じとれぬな……】


「そうか。ともよ……そのような姿になりしは辛かろうに。すぐに……すぐになんとかしてみせようぞ」


 空飛あきひ玉髄ぎょくずいのやり取りを見つめながら、齋藤が残りの者達に指示を出す。


「……この部屋を探索たんさくしつつ……亡骸なきがらを埋葬するぞ……。夜明空飛よあけあきひよ、貴様は玉髄ぎょくずいだったな? その者からもっと話を。それから、蒼主院両我そうじゅいんりょうが等依とうい琴依ことえ。貴様ら三人はそろそろ頃合いだろう……蒼主院輝理そうじゅいんかがりと合流せよ」


 反論する者は誰もなく。それぞれ動き出したのだった。

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