第84話 鬼神

 その頃。

 由毬ゆまりと対峙していた鬼神おにがみひつぎもまた、苦戦していた。由毬ゆまりおに音操癒々鬼おんそうゆゆき範囲技はんいわざが強すぎるのだ。衝撃波しょうげきはの攻撃で、一歩も近づけない。


乙女おとめひつぎ。そんな調子では、語れないわよぉ? 鬼神おにがみ家の真実を、ねぇ?」


 由毬ゆまり煙管きせるを口に含みなおし、ゆったりとした動作で癒々鬼ゆゆきに指示を出す。容赦のない彼女に、鬼神おにがみが思わず舌打ちをする。


「ちっ! これじゃいつまで経っても、近寄るどころじゃないぜ!」


「……そうね。本来、癒々鬼ゆゆき、それでこの強さなんて……」


 百戦獄鬼ひゃくせんごくき無偶羅将鬼むぐうらしょうきも、二人の精神に影響されて動きを止めている。そんな様子を見かねてか、由毬ゆまりが口を開いた。


「あのねぇ……。協力するにしろ、やり方ってものがあるのではなくてぇ? あなた達のおにはどちらもパワータイプ。だけれど、。ようするに、相性の問題もあるのよぉ?」


 さとすような口ぶりに、鬼神おにがみ苛立いらだちげに声をあらげて叫ぶ。


「んだよ!! だったらなんだってんだ! つーか、そんなに言うならちったぁ手加減しやがれ!!」


「……ねぇ由毬ゆまり様? ワタシ達を試すこと、それは力を持ってということだけなの? それとも……別に意図があるのかしら?」


 ひつぎの鋭い指摘に、由毬ゆまり煙管きせるをくるくると回しながら微笑んだ。


「さすがはひつぎねぇ、乙女おとめにも見習わせたいわぁ。ふぅ……まぁもういいでしょう。力及ちからおよばないあなた達に話しても……と思ったのだけれど、よりはマシかしらねぇ?」


 気が変わったと彼女は告げ、おにを引っ込めた。そしてゆっくりと静かに、話し出した。


「二人とも覚悟なさいなぁ? これから話すことは過酷かこくよぉ? ……まずは……鬼神おにがみ一族とは蒼主院そうじゅいん人為的じんいてきに創り出された存在ってことからかしらねぇ」


 その言葉に、鬼神おにがみひつぎいやな予感が当たったという顔をした。そう、虎雷雅こらいが達との会話の中でなんとなくだが感じていたのだ。自分達は創られた存在の末裔まつえいなのではないかということに。


「二人とも、ここまではいいみたいねぇ? じゃあ次よぉ? 鬼神おにがみ家……もといこの字は元々鬼神きしんと読ませるのが一般的なのだけれどぉ。元々はその自然物の精霊のような超常的存在、おんぬ……派生しておに代々だいだいまつっていた巫女の一族だったそうよぉ? それに目をつけた蒼主院そうじゅいんの何代目かが、おにを精神と結びつけて身体からだに憑依させ……鬼憑おにつきを創ったのだそうよぉ。ただ……」


 そこで一端言葉を区切ると、由毬ゆまり神妙しんみょうな顔で続けた。


「ただ、その副作用? で、代々女系だいだいにょけいになってしまい……女しか生まれなくなってしまったそうなのよぉ。しろ的な意味合いも強そうなのだけれどそこは解明中みたいねぇ」


 大人しく聞いていた鬼神おにがみが口を開く。その顔色は真っ青だ。


「……つまり、あれか? 蒼主院そうじゅいんに造られた俺様達一族をマネして……あの藤波ふじなみ家の連中は……とら野郎達になんかしてたってことかよ!?」


「……そういう、ことになるわねぇ」


 あっさりと告げられた事実に、鬼神おにがみひつぎは沈んだ表情を浮かべるのだった。

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