第83話 師弟と

きん術式じゅつしき! 壱銘いめい斬葬ざんそう!!」


 輪音りんねを構え、技を放つ五奇いつきに対し師であるはゆっくりとした動作で左腕を前に出した。


つち術式じゅつしき壱銘いめい……華盾かしゅん


 彼の周囲に花びらが舞い、五奇いつきの攻撃はあっさりと防がれてしまう。


「……俺の知らない技、ですね」


 五奇いつきにらみながらけば、男は静かに告げた。


「君が望む力ではなかったからね。それで? 五奇いつき君。これで終わりじゃないだろう?」


「くっ! 当然! 弐銘にめい覇斬牙はざんが!」


 五奇いつきが次に繰り出したのは、飛ぶ斬撃である覇斬牙はざんがだ。男めがけて一直線に向かって行く。だが……。


きん術式じゅつしき伍銘ごめい封魔刃ふうまじん


 ふところからナイフを取り出した男は、技を繰りだし五奇いつき輪音りんねやいばから色が失われ、かわりにくさりの模様が現れた。


「なっ!?」


「教えたはずだよ? このじゅつは、あらゆるモノを封じる技だ、とね。祓力ふつりょくが高ければ高いほど効果も上がるし……こういう使い方もできるんだ。覚えておくといい」


 一端言葉を区切ると、両サイドに控えていたおに達に指示を出す。


金龍きんりゅう銀虎ぎんこ。頼んだよ」


 二体のおに達は静かにうなずくと、五奇いつきに向かって行く。五奇いつき参弥さんびを構え、迎撃体勢に入った。まず、金龍きんりゅうこぶしを振り上げる。それを五奇いつきはギリギリでかわす。


「くらえ!」


 祓力ふつりょくを乗せて勢いよくワイヤーブレードを金龍きんりゅうに向かって射出しゃしゅつする。それを銀虎ぎんこが割って入り、防御結界を張って防いだ。


「くっ!」


(実力差がありすぎる……! こんなに、強かったのかよ! この人は!!)


 圧倒的な実力差を体感した五奇いつきだったが、それでも意地を張る自分がいることに気づいて思わず苦笑する。


五奇いつき君?」


 男が不思議そうに声をかければ、五奇いつきの口から本音がこぼれた。


「ははっ……こんなの勝てるわけないじゃないかよ……。こんな! こんな実力差なんてさ……。なぁ、先生……教えてくれよ……強さって……力ってなんだよ……? なぁ!!」


 八つ当たりにもほどがある言葉を、だけれど師匠は優しく受け入れようだった。彼は口をゆっくりと開く。


「そうだね……僕も思うよ。力とは……強さとはなんだろうってね? ……五奇いつき君」


「……なんですか……」


 静かに答える五奇いつきに対し、師匠、蒼主院輝理そうじゅいんかがりでありルッツを名乗って来た男がさとすように答える。


「強さというものは、きっと自分自身で決めることなんじゃないかな。なにを、どのように強いと感じるのか、てね。そして力というものは、それにおうじたもののことなのだと僕は思うよ。だから……五奇いつき君。君はどうなりたい? いや、どういう自分でありたいかい?」


 その問いに、五奇いつきは即答できなかった。どういう自分でありたいか? その言葉が脳内をループする。


(どうありたい? 俺は……俺が?)


 ふと。りしの父の姿が脳裏をよぎった。警察官だった父。人を助け、人を守る。その姿が頼もしくて誇らしくて……。


「なりたかった……。俺も父さんみたいな、人間に……」


 絞り出せた言葉はそれだけだった。

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