第81話 真実を知りたいのなら

「おい、もういいだろうが姉貴! さっさと話せや!」


 しばらく進んだ先は、さとの入り口。先刻せんこくまで戦っていた場所に戻って来た形だ。鬼神おにがみの言葉にも由毬ゆまりはいつもの調子で語り出す。


「そうねぇ。ここら辺なら……大丈夫でしょう。乙女おとめひつぎ。あなた達に真実を知る覚悟があるか……はからせてもらうわねぇ? 音操癒々鬼おんそうゆゆき


 由毬ゆまりが自身のおにを呼び出した。半透明の青いおにが、ゆっくりとした動きで由毬ゆまりの前に出る。


「なっ! やる気なのかよ、姉貴!?」


 困惑する鬼神おにがみに対し、ひつぎが口を開いた。


「冷静になりなさい、乙女おとめ由毬姉様ゆまりねえさまがこう言うということは、それだけことが重大ってことよ。それこそ、ワタシ達の今後に関わりそうな……」


「……ひつぎ。てめぇまで、やる気なのかよ……。ちっ! わかったってんだ! やってやらぁ!!」


 覚悟を決めたらしい鬼神おにがみ百戦獄鬼ひゃくせんごくきを呼び出す。それを確認するとひつぎ無偶羅将鬼むぐうらしょうきを呼び出した。二人の様子に由毬ゆまりは満足げに息を漏らし、ゆったりとした口調で宣言した。


「真実を知りたいのなら……来なさいなぁ」


 ****


「う、ううん?」


 五奇いつきが目を覚ますと、そこは深い森の中だった。木々の隙間すきまから漏れ出る日光が眩しい。ゆっくりと身体を起こせば、全身に痛みが走る。その様子を見守っていたのだろう。近くの木にもたれかかっていた……ルッツと目が合った。


「やぁ」


 短く声をかける彼に対し、言いたいこと、きたいことが山ほどある。だが、口を動かすことすらままならない。そんな五奇いつきに向かって、ルッツはゆっくりと近づくと口を開いた。


封呪文解放ふうじゅもんかいほう術式じゅつしき参銘さんめいあおかがやき」


 右手をかざし、癒しの技を五奇いつきにかける。の属性のじゅつは、回復術かいふくじゅつおもなのだ。少しづつだが、確実に五奇いつき身体からだが軽くなっていく。


 しばらくして動けるようになった五奇いつきに対し、ルッツがいつになく神妙しんみょうな声色で話しかけた。


五奇いつき君。……あの妖魔ようまに何を言われたんだい?」


 五奇いつきの肩がピクリと揺れる。その目は、ルッツに対する不信と怒りで満ちていた。


「アンタ、俺に……俺に何かしたのかよ! 気持ちを! 怒りを! なぁ! なんとか言えよ!!」


 一度口にしてしまえば、思っていたよりも簡単に言葉があふれて来る。止まらない五奇いつきの言葉の全てを受け入れるように聞くルッツ。その姿こそ、答えかのようで。気づけば、五奇いつきの心の中はあの妖魔ようまへの憎悪ぞうおと何も言ってくれないルッツへの怒りで染まっていた。


「……五奇いつき君」


 ようやく口を開いたルッツが口にしたのは……。


「すまない」


 一言ひとことの謝罪だった。それを聞いた途端、五奇いつきがルッツの胸ぐらをつかむ。


「いじったのか……。俺の心を!」


「……正確に言うなら、ほんの少し誘導した……かな。君が、憎しみで壊れてしまわないように、ね」


 穏やかな口調、仕草が五奇いつきの怒りを増幅させる。だが、次の言葉は予想外の言葉だった。


「……君も望んでいたからね。憎しみに……いや、違うかな。恐れていたからね。……憎しみで壊れてしまいそうな自分自身を」


 その声を聞いた途端、五奇いつきの手から力が……抜けた。

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