第78話 勝ったのは?

術式じゅつしき! 伍銘ごめい! 舞砲烈火まいほうれっか!」


 灰児はいじの炎をまとわせた斬撃が巨大なおにに当たる。だが、ダメージが入った様子はない。


「うむ! なかなか手強てごわいな! む? Cチームの者達も来たか! 心強い!!」


「失礼でしてよ、愛原灰児あいはらはいじさん? わたくし達は緋雲あけくもです! そんな芋臭い呼称はやめて下さいません?」


 麗奈れいな鉄扇てっせんを構えながら指摘しているのを、美珠みしゅ雅姫まさきがめんどくさそうな顔で見つめていた。一方で、琴依ことえはマイペースにあくびをしながら剛徹武流丸ごうてつぶりゅうまるの肩に乗っていた。

 鬼神おにがみひつぎ各々おのおの呼び出した百戦獄鬼ひゃくせんごくき無偶羅将鬼むぐうらしょうきで巨大なおにに攻撃を仕掛けていた。灰児はいじ緋雲あけくもの四人が左後方からで、鬼神おにがみひつぎ黒曜こくようが右側から攻めている形だ。


 佐乃助さのすけはと言うと、巨大なおにの中心部で倒れこんでいる虎雷雅こらいが達のあいだに陣取って悠々ゆうゆうと立っていた。


「さて……。あちらはどうやら撤退てったいしたようですね? まぁ構いませんが……所詮しょせん妖魔ようま……使のものですしね」


 一人呟きながら、監視用の式神しきがみですずめ達が撤退てったいしたのを確認した佐乃助さのすけは、連絡用の式神しきがみから届いた指示に従う。


「……了解しました、おじい様。こちらも撤退てったいしましょう……媒体者ばいたいしゃ達も……回収します」


 佐乃助さのすけ撤退てったいすることに最初に気づいたのは、黒曜こくようだった。黒いつたを巨大なおに合間あいまをぬって放ち、佐乃助さのすけ拘束こうそくしようとする。だが、それは佐乃助さのすけが繰り出した技によって防がれた。


「くっ。つた程度でははじかれるか! 鬼憑おにつきの二人よ、急げ!」


「わかっとるわ! 俺様達を舐めんじゃねぇ黒曜こくよう!」


「……藤波ふじなみ家の人。ワタシ達鬼憑おにつきとその子達との関係……教えてもらうわ」


 鬼神おにがみひつぎの言葉を背にし、百戦獄鬼ひゃくせんごくき無偶羅将鬼むぐうらしょうきが同時に佐乃助さのすけめがけてこぶしを振り下ろした。だが……。


「ふむ。片方はともかく、もう片方は未熟ですね? こちらとしては少し失望です」


 二体のおにこぶし障壁しょうへきを展開して防ぐと、佐乃助さのすけ一礼いちれいする。


「……このさとでの実験も佳境かきょうでしたし……時間切れです。それでは蒼主院そうじゅいんの皆様、またお会いしましょう」


 佐乃助さのすけの周囲が黒いきりに包まれ、突風とっぷうが吹き出した。その勢いはすさまじく、気を抜くと吹き飛ばされそうだった。


「させはしない! 術式じゅつしき! 参銘さんめい! 爆炎列弾ばくえんれつだん!」


 連続して炎のたまを後方に放つと、その勢いで灰児はいじ佐乃助さのすけに急接近して一撃いちげき、蹴りを入れた。


「ぐっ!?」


 佐乃助さのすけが初めて声を上げた。その流れに乗るように、緋雲あけくもの四人が倒れている虎雷雅こらいが達に接近し、保護した。それを見た佐乃助さのすけは、少しだけにがむしつぶしたような顔をすると、空中に浮きながらさとの奥へと下がって行く。


「待ちやがれ、イカレ野郎!!」


 鬼神おにがみの叫びもむなしく、佐乃助さのすけの姿が今度こそきりとなって、姿を──消した。

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