第77話 変わる状況

 その頃。

 すずめ、スカーレットと対峙している五奇いつき等依とういの元に輝也てるやとルッツが駆けつけて来た。


五奇いつき君! 落ち着くんだ!」


 ルッツの声が響く。なぜなら五奇いつきが、がむしゃらにすずめに攻撃をし続けていたからだ。参弥さんび輪音りんねの特性すら忘れたようにただ武器を振るう。それをすずめがたのしげに笑いながらけていた。

 一方で、スカーレットと戦っている等依とうい五奇いつきを気にかけながらも彼女の攻撃にされていた。

 その状況を変えるべく最初に動いたのは輝也てるやだった。


「〈ひとにしてあらず、われかみ一端いったんになものかみよ、今こそ呼び降ろさん〉、アメノミナカヌシ」


 途端に、五奇いつき、すずめ、スカーレットに重力のがかかる。輝也てるやが呼び降ろした神の再現体の力だ。


「くぅ! 俺は……まだ! ……殺すんだ! コイツを! コイツだけは!!」


 にくしみを込めた五奇いつきの言葉に、すずめは口元を歪ませた。


「大勢来ちゃったみたいだし……たのしみは最後までとっておくタイプなんだよね♪ だ・か・ら♪ スカーレット、帰るよ♪」


「了解シマシタ」


 すずめの言葉を合図に、スカーレットと彼は空間転移の術を発動させその場から消え去った。やいばを振るう相手がいなくなった五奇いつきのスキを突いて、ルッツが五奇いつきの首元を手刀しゅとうで殴り気絶させた。


五奇いつきちゃん! あんた、どうするつもりだよ!?」


 珍しく食ってかかる等依とういに対し、五奇いつきを抱えながらルッツがいつも通りの穏やかさで答える。


「なに、師匠としての落とし前をつけるだけさ……。それよりも、早くみぎわ様をお助けしないとね?」


 言われて等依とういろうを見れば、輝也てるやが鍵を破壊しようとしているところだった。その光景を見て、等依とういは握りこぶしをつくりくちびるを噛んだ。


(あぁまただ。なんで……オレ……いや、わたしは無力なんだろうか……)


 本来の自分が内心で顔を出す。それがたまらなく不愉快で、等依とういむなしさでいっぱいになった。


 ****


「行きましてよ!! きん術式じゅつしき肆銘しめい祇刃しじん!」


 縦ロールの女性が巨大なおにに向かって技を放つ。祇刃しじんは、きん退魔術式たいまじゅつしきの中でも特殊で、攻撃を受けた相手に一種のデバフを付与できるのだ。もっとも、十メートルは超えるであろう巨体にどこまで通じるかは不明であるが。

 そんな彼女に緋雲あけくもの一人、淡いピンクの着物を纏った黒髪糸目の女性、美珠みしゅが大声を張り上げる。


「ちょ、ちょっと待ちなんし、麗奈れいな! あぁもう! 雅姫まさき琴依ことえ! フォローを!」


 残り二人の内、黒い革ジャンにミニスカートの深翠しんすい色の髪をサイドテールにした女性、雅姫まさき薙刀なぎなたを構えうなずく。


「……御意ぎょい


 短く答える雅姫まさきに対し、銀髪に紫色のひとみをした女性、琴依ことえが大きく伸びをしながら答えた。


「りょーかいだよ~みしゅみしゅ~! ワタシちゃんもやっちゃるし、みーんなでやればなんとかなるっしょ~! ってわけで、剛徹武流丸ごうてつぶりゅうまる! いっくよ~!」


 琴依ことえの声に呼応こおうして、三メートルはあるであろう鎧武者よろいむしゃ恰好かっこうをした機械仕掛けのが現れた。

 戦闘体勢に入った彼女達は、先を行く灰児はいじと合流すべく行動に移る。そんな中で、鬼神おにがみひつぎは動揺した表情で互いに見つめ合っていた。

 言いたいことは一緒なのだ。


「……乙女おとめ


ひつぎ、あのイカレ野郎から聞き出すぞ。将鬼しょうきの準備はいいな?」


「……もちろんよ」


 二人が同時に、おにに指示を出した。その横で、黒曜こくようも動く。


(このまま放置するわけにはいくまい……わしの……僕の想いにかけて……!)

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