第76話 対峙する者達

「ど、どうするんだよ虎雷雅こらいが! ぼく、こんなの聞いてないよ!」


 翡翠ひすい色の髪の少年、凰駿おうしゅんが叫ぶ。その声色は不安げだ。隣にいたりゅうの青年、阿龍ありゅうが彼の肩を優しく抱いた瞬間だった。

 彼らの身体からだに異変が起こる。


「な、なんだ!? うぐっ! 身体からだから! !? まさか……だましたのか! 藤波ふじなみぃ!!」


 虎雷雅こらいがの叫びとともに、弥隼みはや凰駿おうしゅん阿龍ありゅうもその場に崩れ落ち、身体からだ痙攣けいれんさせる。その姿は痛々いたいたしく、駆けつけた灰児はいじひつぎ緋雲あけくもの四人、そして鬼神おにがみも言葉を失う中で黒曜こくようだけが冷静に状況を分析していた。


(ふむ? 妖魔ようまの気配が濃くなった……。そうか! 強制的!)


「……まったく。まことに、人のごうとは深いものよ……! わしが愛した人間のためにも、ゆるすわけにはいかぬ!」


「……そうですか。では、ゆるされなくてかまいません」


 黒曜こくようの声に反応するように、苦しむ虎雷雅こらいがの横に現れたのは藤色の髪をオールバックにした青年だった。


「はじめまして、蒼主院そうじゅいん方々かたがた? が名は藤波佐乃助ふじなみさのすけ、覚えなくていいです」


 うつろな目をした佐乃助さのすけに、その場の全員が緊張感に包まれる。


「こいつらで何をする気だ!? いや、そもそも鬼憑おにつきとの関係はなんなんだよ!? 答えろや!」


 鬼神おにがみの叫びにも、佐乃助さのすけは動じない。そうしているあいだにも、虎雷雅こらいが達の様子が更に悪化して行くのが見えた。


「うむ。なにが起ころうとしているのか、まるでわからないな! とにかく、斬りせるのみ!」


 灰児はいじが目にもとまらぬ速さで佐乃助さのすけに向かって行くが、斬撃ざんげきをギリギリでかわされる。だが、灰児はいじおくすることなく、技を放った。


退魔術式たいまじゅつしき! 弐銘にめい紅蓮剛弾ぐれんこうだん!」


 妖魔剣ようまけんゼルギウスの刃先はさきから炎が放出され、たまとなって放たれた。


藤波流ふじなみりゅう……雷光の舞らいこうのぶ


 灰児はいじが放ったたまを、佐乃助さのすけが自身の周りに出現させたかみなり相殺そうさいさせ、灰児はいじと距離を取る。


「では、そろそろ儀式を終わらせていただきましょうか。妖魔ようま達よ、踊りなさい」


 虎雷雅こらいが弥隼みはや凰駿おうしゅん阿龍ありゅうが同時に苦しげな声で叫んだと同時に、彼らが呼び出していた妖魔ようまの姿が更に変異していく。


「なっんだと!?」


「……嘘」


 鬼神おにがみひつぎが同時に声を上げた。なぜなら、融合した妖魔ようま達の姿が巨人から……巨大な身体からだに二本の角を生やした……おにの姿に変わったからだ。大きな口元からは鋭い犬歯けんしがのぞく。


「ふむ。とらりゅうはやぶさ鳳凰ほうおう……バランスが悪かったわりにはしっかりしたおにになったじゃありませんか。これはおじい様も喜ぶことでしょう……。全ては……が一族の悲願のために、消えて頂きましょう。蒼主院そうじゅいん方々かたがた


 佐乃助さのすけの声色に少しだけ感情が乗った。虎雷雅こらいが達は意識を失ったらしくピクリとも動かなくなった。


呆気あっけにとられている場合ではないな! 皆、行くぞ!!」


 灰児はいじの声でひつぎ鬼神おにがみ、そして緋雲あけくもの四人も行動にうつる。まず動いたのは緋雲あけくもだった。


「わたくし達も行きましてよ! 美珠みしゅ雅姫まさき琴依ことえ! 準備はよろしくて!?」


 縦ロールの女性が、緋雲あけくもの他の三人に声をかけた。彼女の声は──自信にあふれていた。

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