第73話 宿命の

「お、前は!」


 五奇いつきの声色が変わる。いつもの大らかさは影を潜め、低くに、等依とういが横で真剣な顔つきになる。


「……五奇いつきちゃん、無謀むぼうなことだけはするなよ?」


「……はい」


 二人の会話にすずめがたのしげにはずんだ声で両手を丸めて口元くちもとに当て、わざとらしい口調で言葉を発した。


「あっれ~? 愚策ぐさくしたワリには冷静じゃ~ん? ま、いいけど~♪」


 一端言葉を区切ると、すずめは腰に両手を回す。


「で・も~? 五奇いつきくんは好みだけど、そっちは好みじゃないんだよね……。スカーレット!」


 五奇いつき達が来た道とは反対側のろうに近い方の道から、赤い長髪をポニーテールにした黒いミニスカートのメイド服を着た若い女が現れた。



「ハイ、ゴ主人様御用デスカ?」


 生気せいきを感じられない声色が不気味さを助長じょちょうさせる。すずめと女、スカーレットの異常なまでの殺気を肌で感じながら、五奇いつき等依とういは頷き合い


「……妖魔ようま。俺のかたき……お前だけは! ゆるさない!」


 五奇いつきの怒りを込めた声に、すずめが嬉しそうに声をあげる。


「いいねぇ~♪ その目、ゾクゾクするよ……。ボクはね? かわいいものが好きなんだ~♪ 男も女も・ね?」


 恍惚こうこつとした表情を浮かべるすずめに対し、五奇いつき侮蔑ぶべつの目を向ける。


「……お前の話なんてどうでもいい……」


 参弥さんび輪音りんねを構える五奇いつきに対し、すずめは振り子を懐から取り出した。


「ふふふ……あはははは! いいよ~遊んであ・げ・る♪ あ。スカーレット、そっちは殺していいよ」


 冷めた声ですずめがスカーレットに声をかける。彼女は両手をかざし、等依とういと向き合った。


「了解デス。ゴ主人様」


る気満々っスかー……。オレちゃん、そんなーに強くないんスけどね?」


 等依とうい火雀応鬼かがらのおうきを前に出し、傍らに氷鶫轟鬼ひとうのごうきを配置し簡易式神かんいしきがみ宿やどした紙札かみふだを右手に構える。彼なりの戦闘体勢だ。

 スカーレットは表情を変えるこなく、一言呟いた。


「奪イマス」


 どこまでも無機質な声色のスカーレットに、すずめがたのしげな笑い声をあげた。その声だけが地下牢に響き渡っていた。


 ****


 その頃。

 さとの入り口で戦闘を繰り広げる鬼神おにがみ黒曜こくようは、虎雷雅こらいが達が呼び出した"妖魔ようま"に囲まれていた。


「ふむ。やはり? 鬼憑おにつきと


 黒曜こくようの言葉に、鬼神おにがみが顔を引きつらせる。


「……てめぇら、マジでなんだよ!? 答えろや!!」


「……答える義理はない。我々われわれにも、ここで死んでもらう!!」


 虎雷雅こらいが咆哮ほうこうが再度響き渡ると同時に、三人が被っていたフードを外した。その姿を見て、鬼神おにがみが声をあげた。


「っな!? その姿は!?」


 人間の顔にはやぶさの目と両足が鳥の足になっている女、左腕が鳥の羽根の形になっている翡翠ひすい色の髪の少年、顔と両手と両足がりゅうの姿をした男の姿があった。

 思わず言葉を失う鬼神おにがみ黒曜こくようの目の前で、虎雷雅こらいがが着けていた手袋を外す。若い男性のがそこにあった──。

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