第71話 突入と思惑

「では参りますでございます。"陽曜転換ようようてんかん"!」


 空飛あきひが唱え終わるとその姿が変わった。長く伸びた黒髪に金色のひとみ、身にまとうは白い着物に"黒曜の羽根衣こくようのはねごろも"。


「おぉ~!? 空飛あきひちゃん、じゃなくて黒曜完全体こくようかんぜんたいって感じっスかー?」


 等依とういけば空飛あきひこと黒曜こくようは不敵な笑みを浮かべて答える。


「ふっ……これがわしまことの力よ。では鬼憑おにつき、参るぞ!」


「……お前、マジでキャラ変わりすぎだぜ? はっ、まぁいい。俺様達の力、見せてやらぁ!」


 鬼神おにがみも気合が入ったらしい。すぐに百戦獄鬼ひゃくせんごくきを呼び出すと、二人はさとへ突入して行く。それを見送ると、五奇いつき等依とういも行動を開始した。


 ****


 その頃。

 藤波ふじなみ一族のさと某所ぼうしょにて。


「ふむ、おにからすがやって来たか」


 奥座敷おくざしきで、白髪はくはつを一つに束ねたおきなが呟く。その声に感情はなく、また、両隣に並ぶ若い藤色の髪とひとみをした男女も動揺はなく、ただ静かに一点を見つめていた。そこにいたのは……。


「あははは! まさかの真正面ましょうめんからなんて愚策ぐさく~♪ ま、いいや。ボクの獲物は一匹だけだし……。出るけど文句ない・よ・ね?」


 いているようで、ただの宣言だ。だらしなくたたみに寝転がるおきなが冷たく言い放つ。


「好きにするのはかまわんが、さとを破壊するのだけは許さぬぞ。にのまえすずめよ」


 名前を呼ばれたことが不服だったのか、ロリータドレスの男、すずめが威圧いあつするような声でおきなに反論する。


「ボクの名前を呼んでいいなんて許可、出してないからね? 人間」


 その眼光は鋭く、冷たい。だが、おきなおくすることなく答える。


「それは互いであろう、妖魔ようまよ」


 下手をすれば一触即発いっしょくそくはつのような雰囲気の中、おきなの隣にいた女が口を開いた。


「おじい様、おにからすはどういたしましょうか? わたくし達で迎撃げいげきを?」


「いや、ここは"媒体者ばいたいしゃ"どもを使うとしよう。のでな」


 おきなの言葉ですずめが大声おおごえを上げて笑い出す。その声を聞きながら、おきなが男のほうに声をかける。


佐乃助さのすけ。行け」


「……はっ」


 佐乃助さのすけはゆっくりと立ち上がると、座敷ざしきから出て行く。それに続くようにすずめも起き上がり、動き出した。


「ふふふ♪ 待っててね~? い・つ・き・く・ん?」


 ****


「うっ!?」


 突然の寒気に、五奇いつきが身震いをする。そのことに気づいた等依とういが心配そうに声をかけた。


「んん~? 五奇いつきちゃん、だいじょーぶ?」


「あ、いやなんか悪寒おかんが……。大丈夫です!」


 五奇いつきの言葉に等依とういが不思議そうな顔をする。


「まぁならいーっスけど……。さて、空飛あきひちゃんと鬼神おにがみちゃんが正面からやってくれてるあいだに、行くっしょ?」


「もちろんです!」


 二人が今いるのは、さと裏側うらがわにある地下水路だ。ここから、里の中へと入って行くのだ。


(ゆっくり……慎重に……)


 浅く呼吸を繰り返しながら、二人は一歩一歩着実に進むのだった。

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