第70話 一族が住まう里

 人為的じんいてきに切り開かれた山の中腹ちゅうふくに、その一族が住まう"さと"はあった。静かな森の中、とりが二羽止まっているのが視界に入った。


「ここが藤波ふじなみ家……もとい、藤波ふじなみ一族が住まうところ……ですか」


 近代技術をことごとくこばむかのように、日本建築……それも平安時代で時が止まったかのような様式の家々いえいえ等間隔とうかんかくに並んでいる。

 さとを遠くから見つめながら五奇いつきが思わず呟くと、等依とういが口を開いた。


「そうっス。元々は蒼主院そうじゅいんついをなす退魔師たいましの一族だったみたいっスよ?」


「それだけの一族がなんだって、こんな山奥にいんだよ? おかしくねぇーか?」


 鬼神おにがみき返せば、等依とういは困ったように首を横に振る。


「そこまではわかんないっスねー。蒼主院そうじゅいん家次期当主の……両我りょうがくらいの地位だったら、なんかわかったかもっスけどー」


 自分の家のことだというのに、他人事たにんごとのように話す等依に五奇いつきは違和感を覚えた。それは空飛あきひも同じだったようだ。


等依とういさんは蒼主院そうじゅいん家では一体どういう立場なのでございましょうか?」


 そう尋ねれば、等依とうい抑揚よくようのない声で答える。


「……できそこないのおちこぼれっスよ……。んー! オレちゃんの話はここでおっしまい! とゆーわけで、どうするんスかー? 五奇いつきちゃん?」


 誤魔化し話を変える等依とういに、仕方なく五奇いつきおうじた。


「……そうですね……。俺達が来るのは向こうもわかっているだろうしなぁ。でも……」


 五奇いつきが考えあぐねていると、空飛あきひがゆっくりと手を上げ口を開いた。


「あの……。ここはおとりとなるというのはいかがでございましょうか?」


 彼の提案に、三人が驚きの表情を浮かべる。それにかまわず、空飛あきひは続ける。


「実を言いますと、サーシャとの一件でかなり黒曜こくようとしての力が戻っているのでございます、はい。ですので、自信があるのでございます」


「言ってもよぉ……。心許こころもとないだろうが!」


 怒気どきを含んだ声で鬼神おにがみは言葉を一端切ると、空飛あきひ等依とうい五奇いつきに視線をズラしていき……五奇いつきに向かってゆびを突きつけながら言い放つ。


「……俺様おとりすっぞ、前は任せろ!!」


「……! 鬼神おにがみさん……でも!」


「でもじゃねぇ! 決断しろよ、リーダー!!」


 まっすぐ五奇いつきを見つめながら彼に発破をかける鬼神おにがみに、等依とういが呆れた声を上げる。


「はぁ~……。五奇いつきちゃん、どーするよ? この二人……言い出したら聞かないっスよ、多分……」


「……そうですね。わかった! 俺も覚悟を決めたよ……。やりましょう、等依とうい先輩!」


「うぃー。じゃあ、二人とも……無茶は無しっスよ~!?」


 四人はうなずき合うと、行動を開始した。止まっていたうちの一羽が飛び去って行くのが見え、五奇いつき

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