第58話 それぞれの課題

「では、AチームとEチームでそれぞれ混合パーティを組んで、逃げ出した人造妖魔じんぞうようま討伐とうばつを頼みたいんだ! いいだろう?」


 ルッツがそうけば、教官達と祓神ふつかみ二柱にはしらを除いた八人に、強引にくじを渡す。


「んだよ? これ? 俺様は……」


「礼儀知らずなむすめだな! このおかたを誰だと心得ているのだ! いや、知らぬのも仕方ないか! あ、わたしは教えんぞ?」


 文句を言おうとする鬼神おにがみに対し、両我りょうがが口を挟む。

 その様子を普段ならいさめる等依とういは微妙な表情で見つめているし、他のAチームの者達は興味がないのか、渡されたくじを見つめている。

 状況がつかめないだけに、五奇いつき空飛あきひも黙るしかなかった。


「よしよし! さぁ、さっさと始めようじゃないか!」


 まるで何事なにごともないかのように、ルッツはさっさと話を進めてしまった。


 ****


『逃げ出した人造妖魔じんぞうようまは合計四体。全部倒して構わないよ!』


 ルッツのおおざっぱすぎる指示のもと、くじで決まった組み分けで山の中を進む。くじわけの結果、五奇いつき空飛あきひ両我りょうがひつぎの四人と、灰児はいじ輝也てるや等依とうい鬼神おにがみの四人という編成へんせいになった。


(それにしても……なんなんだ? この二人というか、蒼主院そうじゅいん家と鬼神おにがみ家って……?)


 五奇いつきはそう思いながら、前を歩く両我りょうがひつぎを見つめていると、視線に気づいたらく振り返った両我りょうがと目があった。

 ネイビーの髪色に青と緑のメッシュに眼鏡。鋭い目つきが余計に威圧されている感じがして、五奇いつき両我りょうがから視線をずらす。


「おい、わたしを見てどうした? もしや、蒼主院そうじゅいん家次期当主におそれおののいたか? いいだろう! 気分がいいから教えてやろう、五十土いかづちよ! わたしこそは蒼主院そうじゅいんにして最高の退魔師たいましになる男! 蒼主院両我《そうじゅいんりょうが

》である!」


 ほこらしげな両我りょうがの様子に五奇いつきがどう答えようか悩んでいると、空飛あきひが右手をあげる。


「あの、両我りょうがさん? 五番目の妻というのは一体どういう意味なのでございましょう?」


「そのまんまの意味だが?」


 意味がわからず、五奇いつき空飛あきひは顔を見合わせる。それを見た両我りょうがひたいに手を当てた。


まったく、世間知らずな田舎者だな!」


「……世間知らずなのはどっちかしらね?」


 口を挟んだひつぎに対し、両我りょうがが目を見開いた。


「なんだとひつぎ! "鬼憑おにつき"のくせに偉そうに口答えするのか!?」


「あら? 喧嘩なら買うわよ? だって……ワタシの将鬼しょうきの方が、貴方あなたおに達より強いもの」


 一触即発いっしょくそくはつの雰囲気をかもし出す二人に、五奇いつきがとうとう声をあらげた。


「ちょっと! こんなところでやめてくださいよ! 人造妖魔じんぞうようま討伐とうばつが最優先でしょう!」


「そ、そうでございますよ! 色々と困ります! はい!」


 さすがの空飛あきひも止めに入ると、両我りょうがひつぎは一気に互いへの興味を失ったかのように距離を取り、黙ってしまった。


 ****


「おい、貴様。わざとなのはいいが、本当に収集つくのだろうな?」


 八人が討伐とうばつへと向かってから、ずっと黙っていた齋藤が口を開くと、ルッツが微笑みながら答える。


「大丈夫さ。彼らにはそれぞれの課題がある。それに向き合ってもらおうと思ってね? ほら、Eチームはチームワークは悪くない。けど、戦闘力に難がある。そして、Aチームは個々の戦闘力こそ高いが、。そこをうまく、互いに学んでほしいのさ? ねぇ、由毬ゆまり?」


 話を振られた由毬ゆまりは、煙管きせるくわえようとしていた手を止めた。


「そうねぇ……。そうかも、ねぇ?」


「全く、貴様らという奴は……!」


 ぼやく齋藤と呑気なルッツと由毬ゆまりを、少し遠くの方で辰智たつちみぎわが優しい目で見つめていた。

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