第56話 来訪者

「ん? なんスか? みんなして見てきて……?」


 いぶかしげに等依とういけば、空飛あきひが代表して声をかける。


「おかえりなさいませ、等依とういさん。帰宅された直後に申し訳ないのでございますが、ただいま退魔術式たいまじゅつしきについて話しておりまして。その、なぜ等依とういさんは退魔術式たいまじゅつしきを使えないのでございましょうか?」


 空飛あきひ五奇いつき鬼神おにがみが同時に叩いたおとが響き渡る。


空飛あきひ君、オブラートって知ってる……?」


「誰がどストレートにけっつったよ!? ちったぁ含めや!!」


 三人の様子に、なんとなく察したらしい等依とういが言いにくそうに頬をかきながら言葉を発した。


「あー……。まぁその。オレちゃんが退魔術式たいまじゅつしき使えないのは、なんつーか……。祓力ふつりょくの質と肉体のうつわとしての機能が合ってないっつーか……うーん。ようするに体質っスね! オッケー?」


 あまりれられたくない話題なのだろう。早々そうそうに切り上げると、等依とういは買ってきた荷物をしまい始めてしまった。その様子に流石の空飛あきひも察したのか、三人はそれ以上言及することをやめた。


 ****


 その日の夜のことだった。

 五奇いつき達、Eチームの面々めんめんが住まう家に前触まえぶれもなく、その人物はやってきた。


「やぁ、Eチームの諸君しょくん。久しぶりだね? 僕さ」


 そう言ってルッツは、お菓子の袋詰めを持って玄関先で立っていた。


「る、ルッツ先生!?」


 驚く五奇いつきに、ルッツはにこやかな笑みを返す。


「そんなに驚くことかい? ところで、上がってもいいかな?」


「上がる前に、なーんで来たのか、それ、教えてほしーんスけど?」


 等依とういが鋭くそうけば、ルッツがあっさりと答える。


「なにって、勿論もちろん。君達の力をより引き出すためさ!」


 ****


「んで? 俺様達の力を引き出すってのは、なんだよ?」


 リビングに着くなり、乱暴にソファーに座る鬼神おにがみに、ルッツが声をかける。


「おやおや、レディがいいのかな? まぁそれよりも、だ。君達は強くなったよね? もっとも、五奇いつき君は"土"の退魔術式たいまじゅつしきを発動させただけだし、空飛あきひ君はもう一人の自分と向き合い黒曜こくようになっても自我を失わないだけ」


 そこで言葉を区切り、四人を見渡してから再び口を開いた。


乙女おとめ君は百戦獄鬼ひゃくせんごくきの制御は出来たけど技を出すまでにはいたっておらず、等依とうい君は……」


「……オレちゃんは今んとこ、ぜんぜーんっスねー」


 等依とういがそうあっさりと認めると、ルッツは肩をすくめる。すると、鬼神おにがみがワナワナと震えながらルッツに詰めよる。


「俺様を乙女おとめって呼ぶんじゃねーよ!!」


「そうは言ってもねぇ、僕は君以外の鬼神おにがみを二人知っているからねぇ。君だけを鬼神おにがみ一族のに、呼ぶわけにはいかないだろう?」


 鬼神おにがみが珍しく沈黙した。それを同意と受け取ったのか、ルッツはこう告げた。


「だから、君達には……修行をしてもうらおうかなぁと思っているのさ! 怪我も癒えているわけだしね!」


 唐突すぎる提案に、四人は一斉に驚きの声をあげた。

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