第55話 疑問

 あれから一週間が経った。

 その間、Eチームのメンバーは五奇いつき空飛あきひが療養のため家から出られず、等依とうい鬼神おにがみが交代で買い出しに出る日々が続いていた。


「ホント、申し訳ないな……」


 そう五奇いつきが呟けば、隣でソファーに座っていた鬼神おにがみが口を開く。


「そう思うんなら、早く治せってんだよ。バーカ」


 無愛想に、だけどどこか優しい声色に五奇いつきは困惑してしまう。


(最近、おかしい……。俺のこときらいなんじゃなかったのか? なのに、みょうに優しくないか?)


「どうした? 五奇いつき?」


(しかも名前呼びまでしてくるし……。いや、嬉しいけど……! けど!)


 更に困惑を深めた五奇いつきは、あえて話をらすことにした。


「そ、そういえばさ! 等依とうい先輩が退魔術式たいまじゅつしきを使えないのは知ってるけど、鬼神おにがみさんや空飛あきひ君も使ってないのはなんでなんだ?」


 そう話を振れば鬼神おにがみはポカンとし、ソファーから少し離れた和室で寝転んでいた空飛あきひが顔を上げた。


「はぁ? てめぇそんなことも知らずに、退魔術式たいまじゅつしきなんて使ってたのかよ?」


「うっ……仕方ないだろ? 知らないんだからさ!」


 五奇いつきが反論すると、空飛あきひも会話に参加する。


「そう言われてみれば、不思議でございますね? あ、僕は退魔術式たいまじゅつしき使のではなく、使のでございます。はい。その、半妖はんよう妖力ようりょくを使用するので、祓力ふつりょくとは相性が悪いからでございます」


「えっそうなのか!?」


 五奇いつきが驚いて言葉を返せば、鬼神おにがみが続ける。


「本当に知らねぇのな……。てめぇの師匠は一体何を教えてたんだよ? まぁいい。俺様は、祓力ふつりょくこそあるがその全てを百戦獄鬼ひゃくせんごくきに回してるから、退魔術式たいまじゅつしきなんざに回す余裕がねぇんだよ」


 二人の言葉で、このチームで退魔術式たいまじゅつしきを使えるのが自分だけだと五奇いつきは理解した。それと同時に新たな疑問が湧き上がる。


「あれ、じゃあ……なんで等依とうい先輩は退魔術式たいまじゅつしき使んだろう?」


 五奇いつきの疑問に答えられる者など誰もいなかった。全員で首をかしげる。しばらくして鬼神おにがみいぶかしげな声をあげた。


「つっても、アイツ蒼主院そうじゅいんだろ? 名家めいけのボンボンのわりには、確かにそんな雰囲気ふんいきねぇな」


「えっ? 蒼主院そうじゅいんってそんなに……? あ、そういえば確か蒼主院流退魔術式そうじゅいんりゅうたいまじゅつしきが正式名称だから……あ。等依とうい先輩ってその血筋ちすじ!?」


 ようやくそのことに気づいた五奇いつきに、鬼神おにがみが思わずつっこみを入れた。


五奇いつきって、けっこう抜けてるよな……。蒼主院そうじゅいん姓なんだから、そこの一族に決まってんだろーが」


「うっ……さすがに返す言葉がない……」


 五奇いつき鬼神おにがみのやりとりを見ていた空飛あきひが、話を戻す。


「ですが、確かに不思議でございますね? 僕は蒼主院そうじゅいん家に詳しくはないのでございますが……はい」


 三人で頭にはてなマークを浮かべていた時だった。タイミング良いか悪いか、玄関が開き等依とういが帰宅した気配がした。

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