第53話 疑問と望み

「とりあえず、五奇いつき。てめぇそれ解除しろ」


 鬼神おにがみに声をかけられ、五奇いつきはようやく円盾えんしゅんを解除した。途端に疲れがどっと出て、思わず床に膝をつく。


「うっ……」


五奇いつきちゃん!?」


 あわてて等依とうい五奇いつき身体からだを支えた。


「ありがとうございます、等依とうい先輩。俺のことよりも……空飛あきひ君が!」


 空飛あきひもとい黒曜こくようとサーシャに視線を移せば、二人はエントランスのガラス窓を破壊して、中庭で戦っていた。


「割って入ろうにも、ヒートアップしていて入れねぇ……」


 鬼神おにがみが悔しそうに言えば等依とういが静かに答える。


「いや……あれは仕方ないっスよ。互いに分割されたたましいが引かれ合ってるって感じじゃん? そのあいだに入っていーもんなんスかね?」


 そもそもろんに、五奇いつきもなんと返していいのかわからない。三人はとりあえず、見守ることしかできなかった。そんななか鬼神おにがみが小さく呟いた。


「てかよ、今思ったんだが……。退魔術式たいまじゅつしき大元おおもとって陰陽道おんみょうどうだよな?」


「んん? 鬼神おにがみちゃん、話が飛んでてわっかーんねぇっス」


 等依とういき返され、鬼神おにがみが再度ゆっくりと口を開いた。


陰陽道おんみょうどうって確かよぉいんようでバランス取るとかなんとかなかったか? ……それに当てはめるとよ、黒曜こくようって男と女とか……その、よういんようたましい分割したとかねーか? ならよ……黒曜こくようは男だったのか女だったのか? そもそも性別あったのか? って思ったんだよ」


「……確かにー! 妖魔ようまって性別あるタイプとないタイプいるっスわー」


 二人の言葉に五奇いつきが困惑したようにく。


「えっ? じゃあ、空飛あきひ君は男だけどつまり……?」


「……いずれにせよ、片割れだのなんなの言うってことは、そういう可能性もあるんじゃねーの? なら……」


 一端いったんそこで言葉を切り、再度呟くように鬼神おにがみが続ける。


「あのサーシャとか言うヤツ、男と女どっちなんだろうな?」


 ****


「あはははは!」


わしの怒りを受けよ!」


 黒いつた同士が激しくぶつかり合う。その衝撃で中庭の草木は揺れ、突風とっぷうが吹く。


「あれあれあれ? どうしたのかな、? こんなの痛くもかゆくもないよ?」


「これがわし本気ほんきと思うてか!」


 そう口では言うものの空飛あきひであり、黒曜こくようである彼は内心で焦っていた。


(おかしい! 全盛期の力には及ばぬ! なんだというのだ?)


 サーシャをにくらしげににらみつけながら、彼はようやくある可能性に辿り着いた。


(そうか! "負の感情"と"力"があの小僧めにいっておるのか!)


 "正の感情"と"知識"が空飛あきひに、"負の感情"と"力"がサーシャに。力が分割ぶんかつされたことで、制御も本来の力も出せない……そのことに思い至った"黒曜こくよう"は、必死で知識で対抗しようとする。


「どうしたのさ! さぁ、どんどん来なよ!」


 なおも攻撃の手をゆるめないサーシャを見て、あることを試すことにした。


「ん? 本当にどうしたのさ? つたを動かさなくなって……」


「小僧に問いたい。望みはなんだ?」


 そうかれたサーシャは、不思議そうな顔で答える。


「……どういう意味さ?」


 すると、"彼"はハッキリと告げる。


「言葉の通りだ。何が欲しい? 言ってみろ。可能な限り、叶えてやるぞ?」


 まるで宣言するかのように。

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