第51話 円盾

 五奇いつきが入院している病院は、父もいる専門病院の別棟だ。こちらはトクタイ隊員達専属であり、七階建てだ。


「とりあえず……武器を!」


 現状だと階段の方が速い。五奇いつきは、非常階段目指して走り出した。そのあいだに、騒ぎを聞きつけたトクタイ隊員達とすれ違う。

 他の入院患者を避難させる隊員や、護衛の隊員、そして、少年と戦闘に入る隊員達。

 五奇いつきは心強さを感じながら、非常階段にたどり着く。今いるのは三階で、目指しているのは地下一階だ。


(……やれることをやるだけだ!)


 ****


「へぇ、僕と遊んでくれるんだ?」


 少年はうつろな目で、武器を構えたトクタイ隊員達とにらみ合う。


「じゃあ、たのしませておくれよ?」


 ****


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしながらなんとか地下一階にたどり着くと、武器保管庫へと向かう。IDを通せば、中に入れた。


(あれ? そういえば、ここの管理者はどこに?)


 そんな疑問が一瞬頭をよぎったが、今はそれどころではないと判断し保管されている自分の武器、参弥さんび輪音りんねを急いで取り出す。


 ここは、入院しているトクタイ隊員の武器を管理している専用の保管庫なのだ。


「よし、行く……いたたたっ」


 李殺道りつーうぇいにやられた傷が痛む。だが、構ってなどいられない。五奇いつきは地下から出て、一階のエントランスまで来たところで思わず絶句した。


「えっ……?」


 そこには、血で染まった少年がソファに座っていた。


「はっ? え……? 隊員達はどうしたんだよ…?」


 思わずけば、少年は手に着いた血を舐めとりながら答える。


「あー、殺したよ? うざかったし……それに、キミより弱かったからさ?」


 あまりにもあっさりと、それも、命を奪ったことをなんとも思っていない言葉に五奇いつき激怒げきどした。


いのちをなんだと思っているんだ!? ゆるせない!」


「へぇ……? じゃあさ、教えておくれよ? いのちってヤツの価値をさぁ!!」


 黒いつたを足元から出し、羽根衣はねごろもが翼のように広がる。その姿はまさに、巨大なからすのようだった。


「じゃあ行くよ? 常夜の宴とこよのうたげ。さぁ、踊り死になよ!」


 少年の全身から黒いつたが、四方八方しほうはっぽうから飛んでくる。五奇いつきはそれを参弥さんびのワイヤーブレードと、輪音りんねの銃部分で破壊しながら前進して行く。その様子を見た少年は更にたのしそうに口元をゆがませる。


「いいなぁ……。キミに最初に会いに来て正解だったよ。もキミが死んだら認識してくれるだろうね……この僕をさぁ!」


 更に勢いを増す攻撃に、五奇いつきは技を出す余裕がない。更には李殺道りつーうぇいから受けた怪我が悪化してきた。


「ぐっ! くっそ!」


(俺はこんなところで、死んでいる場合じゃないんだ! なにか、なにかないのか!?)


 その瞬間、灰児はいじの言葉が脳裏をよぎった。


『なぜ"土"ではなく"金"なんだ?』


 五奇いつきは、ルッツに一度だけ見せてもらった技を繰り出した。その時は、ルッツから「覚えなくていい」と言われたのだがなにかの役に立つのではないかと思い、覚えていたのだ。


「"封呪文ふうじゅもん"! 土の退魔術式つちのたいまじゅつしき肆銘しめい円盾えんしゅん!」

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