第49話 許可と忍び寄る者

「……調べるっつったって、てめぇ入院中だろうが!」


 鬼神おにがみにそう突っ込まれてしまい、五奇いつきはうまい返しが見つからない。


「そ、れはそうなんだけど……」


「あ、あのでございますね? 僕のことは急ぎではございませんので! はい」


 空飛あきひの目が揺らいでいるのがわかる。四人は黙り込み、それぞれ考えるがいい案が思い浮かばない。


 結局、今日はこの件を齋藤に報告することにした。


「そいじゃー五奇いつきちゃん、まったねーん」


 等依とういが声をかけ、病室を出て行く三人を見送りながら、五奇いつきは歯がゆさにさいなまれながらため息をいた。


 ****


 Eチームの待機室の隣に、教官室はある。そこに五奇いつきを除いた等依とうい空飛あきひ鬼神おにがみの三人で報告すると、齋藤が静かに口を開いた。


「なるほど、理解した。……最初に言っておこう。こんなケースは初めてだ」


「えっ? そうなのでございますか?」


 空飛あきひき返せば、齋藤が頷く。


「確かに前世の妖魔ようまの力が強すぎて制御しにくい半妖はんようはいるし、力を使えば人格が変わる例も報告されてはいる。だがな? 


 はっきり答えると、空飛あきひの方を見て話を続ける。


「貴様の前世、黒曜こくようのことを調べてみる価値はあるだろうな。ドッペルゲンガーなどというのも含めて、貴様らが調査することを許可する!」


 正式に許可を得たEチームは空飛あきひの過去から調べることにした。


 ****


 青い空の下。

 某所ぼうしょ屋上にて。


「知らなかったなぁ。ねぇ? まだ僕を知らない? あははははは! 愉快ゆかいだよ! 実に! あはははは!」


 一人両手を広げ、声高こわだかに叫ぶ。


「もうすぐ! もうすぐからすが目覚めるよぉ! さぁ……殺し合おうか?」


 たのしげな声とは裏腹に死んだひとみが揺れた。


 ****


「ひっ!?」


 悪寒おかんがして、空飛あきひは思わず声をあげた。三人は今、トクタイの駐車場にいる。


空飛あきひ、てめぇには緊張感とかそういうのねぇのか?」


「えっ? 緊張はしておりますでございますが? はい」


 空飛あきひ見当けんとう違いの発言に、鬼神おにがみは面倒になったのか話題を変えた。


「それにしても、五奇いつきが入院して五日だろ? 俺様達だけで調べて、どーすんだよ? なんか案ねぇのか等依とうい


 突然話を振られた等依とういは、少し困った顔をしながら答える。


「んんー? そーっスねぇ……。五奇いつきちゃんにはオレちゃん達が調べたことを、まっとめーてもらう! とかどうっしょ?」


 そう提案すれば、鬼神おにがみも納得したらしい。


「ま、それが妥当だとうか……。おい、とりあえず空飛あきひ、てめぇが出たっつー孤児院に行くでいいんだよな?」


「あ、はい。そうでございますね! そこではよくしていただいたものですから……あぁ、懐かしいでございます。はい」


 心から思っているのだろう。いつもよりあどけない表情をする空飛あきひを見つめながら、等依とうい鬼神おにがみは車に乗り込む。空飛あきひが育った孤児院は黒樹くろき市内の西のはずれにあるのだ。


「そいじゃ、空飛あきひちゃんナビよっろー」


 助手席に乗り込む空飛あきひにそう声をかければ彼が明るく答える。


「はい、お任せくださいませ!」


 こうして、三人は空飛あきひが育った孤児院へと車を走らせた。

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