第48話 白状

 その頃、某所ぼうしょにて。


まったく。李殺道りつーうぇいとか言ったかね? 困ったものだねぇ」


 暗くなった街明かりを見つめながらそう呟けば、背後から返事が帰って来る。


「いかがされますか?」


「ここはトクタイの若手に期待しようじゃないか。鬼憑おにつきが反応したってことは、ただの人間じゃないんだろうしね?」


「では、そのように」


 ****


 その日の夜。

 等依とういの部屋の床で布団を引いて寝ていた空飛あきひは、またあの夢を見た。今度はより鮮明せんめいに。


 ――鮮血せんけつに染まる両手。


 ――動かなくなった


 ――僕は、その光景がたまらなく気に入った……。


 ――だから……。


「違う! それは僕じゃない!! 僕は、わしはそんなもの望んでなど!」


 大きな声を張りあげて起き上がれば、自身のベッドで寝ていた等依とういが心配そうな様子で空飛あきひを見つめていた。


空飛あきひちゃん? どーしたんよ? めっさ、うなされてたっしょ?」


 声をかけられ、答えようとした瞬間。ノックもせずに鬼神おにがみが室内に入って来た。


「どうした!? すげぇ声が聴こえたぞ!?」


 最近の鬼神おにがみは、仲間を気にかけるようになった。それはいい傾向けいこうなのだが。


「あの……鬼神おにがみちゃん? せめてノックはしてほしーんだわ……」


「んなこと言ってる場合か! おい空飛あきひ、てめぇどうした!? 言え!」


 鬼気迫ききせま鬼神おにがみいきおいにされ、とうとう空飛あきひは白状することにした。自分には黒曜こくようの記憶があり、それに起因してそうな悪夢を見ることを。


 ひと通り話を聞いた等依とうい鬼神おにがみは、二人して黙り込んでしまう。あまりにも予想外だったからだ。しばらくして、口を開いたのは鬼神おにがみだった。


「バカ野郎が……。そんな大事だいじなもんを抱え込んでんじゃねーよ! 明日、五奇いつきにも話すからな? ……一応、リーダーだしな」


(ここでデレてどーすんスかね?)


 内心で突っ込みながらも等依とういうなずき同意すると、空飛あきひの背中を軽く叩く。


「ま、そーっゆーわけで! 寝れないんなら、いっそゲームでもしちゃったりとか?」


「いや、そこは寝ろや!」


 鬼神おにがみに怒られた二人は、苦笑しながら再び眠りにつくのだった。


 ****


 翌日。


「な、な、なっ……なんだってぇ!?」


 病室内に空飛あきひの事情を聞いた五奇いつき大声おおごえが響き渡る。


「前世の記憶がまるっとあるだって!? そんな大事だいじなこと、なんで黙ってたんだよ! ってあいたた……」


「そんな大声おおごえ出すかーらよ? 気持ちはわかっけど、どーどー」


 等依とういに背中をさすられながら、五奇いつきは涙目で空飛あきひを見つめる。


「はぁ……。とにかく、そういう事情ならあのドッペルゲンガーの話も、悪夢のことも、どうにかしないとじゃないか。うーん、教官にこのことは?」


「とりあえずてめぇに話してからにすることにした」


 不貞腐ふてくされたように言う鬼神おにがみの言葉で、五奇いつきはある決意をした。


「教官に話したうえで……許可をもらえればだけどさ。調べてみようよ!」

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