第45話 もう一人の自分

「種族の違い……ですか?」


 五奇いつきがそうけば、等依とういは深くうなずいた。


「そそ。鬼神おにがみちゃんのおに百戦獄鬼ひゃくせんごくきは、鬼神おにがみちゃんと精神で繋がっている……うーんと、詰まるとこ、本当にもう一人の鬼神おにがみちゃんみたいな?」

 

 そこで言葉を切ると、等依とういが少し声のトーンを落として続ける。


「んで、オレちゃんのおに火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきは、対等な契約の元で繋がりを持った……そーね、イメージ的に精霊とかに近いんかな?」


「えっと、つまり……。鬼神おにがみさんのおには鏡に映った自分みたいなもの?」


 五奇いつきがそう解釈すれば、等依とういは再び頷く。


「そーゆーこと。ってか、急にどーしたん?」


 怪訝けげんそうにかれ、五奇いつきは思わず視線をらす。まさか、鬼神おにがみに膝枕されたことを思い出したついで……とは言えるわけもなく、五奇いつきはどう答えたものかと悩んだとき扉がノックされた。


「今入ってもよろしいでございましょうか……? あ、僕でございます。夜明空飛よあけあきひでございます。はい」


 五奇いつき等依とういは顔を見合わせると、互いに深く追求せずに空飛あきひに同時に声をかけた。

 室内に入って来た空飛あきひの顔色は優れない。「本当にどうした?」と二人が心配した瞬間、空飛あきひが珍しく声を張り上げた。


「僕! ドッペルゲンガーを見たかもしれないのでございます!!」


 その言葉に五奇いつき等依とういは困惑して、思わず固まってしまった。


「えっ……?」


空飛あきひちゃーん? ゲームのし過ぎっしょ?」


 二人がそう言えば、空飛あきひは大きく首を横に振る。


「違うのでございます! と、とにかく話を聞いて下さいませ!」


 そう懇願こんがんされてしまえば、二人は受け入れるしかない。仕方なく、空飛あきひの話を聞くことにした。


 ****


 それは昨夜のこと。

 空飛あきひが自室で眠っていた時、それは現れた。


『ねぇ……? そろそろ……出会おうよ?』


 空飛あきひが目を開けると、そこには白い髪のがいた――。


 ****


「ということなのでございます。はい」


 空飛あきひの話が終わると、五奇いつき等依とういは困惑の色を濃くする。正直、話が飛躍ひやくしすぎていたからだ。


「あー……空飛あきひ君? 大げさなんじゃないかな?」


「そーっスよ。考えすぎっしょ~」


 二人に言われても、空飛あきひは主張を変えない。


「いいえ! いいえ! あれは絶対、ドッペルゲンガーでございますよ! 僕は、し、死んでしまうのでございましょうか!?」


 とうとうそんなことまで言い出す空飛あきひを、二人でなだめると等依とういが言う。


「そいじゃー、空飛あきひちゃん。今夜はオレちゃんとこでお泊りしちゃう~なぁーんて?」


 そう冗談めかしてけば、空飛あきひが顔を明るくする。


「ありがとうございます! そうさせていただきたくぞんじます! はい!」


「マジか」という等依とういの小声が聞こえなかったのか、空飛あきひはそうと決まればと等とういの背中を押して行く。


「それでは五奇いつきさん、お大事だいじになさってくださいませ! 失礼いたします!」


 あわただしく病室を後にした二人に向けて、五奇いつきは手を振る。


(もう一人の自分、か。鬼神おにがみさんみたいな感じでもないんだろうし、考えすぎだよなぁ)


 深く考えるのをやめ、ベッドに横になった。

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