第44話 お兄さん

「ん~着替えはこんな感じっスかね~?」


 五奇いつきの部屋で適当に着替えを用意した等依とういは、詰め込んだ荷物を持って立ち上がろう――として、少しよろけてしまった。


「と~? ダメージきてんな……」


 一人そう言ったつもりが、聞こえていたらしい。省エネモードであるすずめの姿をした火雀応鬼かがらのおうきがすり寄ってきた。なお氷鶫轟鬼ひとうのごうきは完全に休眠モードに入っている。


火雀かがら~。相方やられて辛いっスよねー」


 そう声をかければ、火雀かがら等依とういの肩に乗る。その姿に微笑むと、等依とういは気を取り直して荷物を持ち五奇いつきの部屋を後にした。


 ****


 家から五奇いつきが入院している病院までは距離がある上、荷物のことも考えて等依とういは車を出すことにした。車庫に行くと、そこである人物に声をかけられた。


「やぁ、等依とうい君?」


 ゆっくりと声をした方へ視線を向けると、等依とういはため息をきながら声のあるじに対してたずねる。


「そーゆーお兄さんは、五奇いつきちゃんのおししょーさんっスね? いや、それとも……?」


 等依とういがルッツにわざとらしくそうけば、彼は柔和な笑みを崩さずに答える。


「そうにらむことはないだろうに。お兄さんなんて呼んでくれるんだったら、尚更なおさらじゃないのかい?」


「べっつにー? まさかアンタが五奇いつきちゃんの師匠とは思わなかったっス。それも、なんで"ルッツ"なんスか?」


「だって、おとの響きがかっこいいだろう?」


 "ルッツ"の答えに等依とういは呆れた様子でしばらく閉口へいこうした後、ため息交じりに口を開いた。


「……はぁ、まーいっスけど。かんけーねぇし……?」


「そう言わないでおくれよ。君には君の道があると前にも言っただろう?」


「つーわれてもねぇ。稀代きだいの《・》に言われても説得力皆無かいむっしょ」


 そんなやり取りをしながらも等依とういは荷物をさっさと入れ、車を出す準備を整える。


「じゃ、まぁーそーゆーことで。お兄さん、いやルッツ先生まったねーん」


 わざとらしくそう言うと、等依とういは車を今度こそ出した。その様子を焦るでもなく、ただ見送るとルッツは真剣な眼差しになる。


「……あの日君に言ったことは本当さ、等依とうい君。君には君の道がある。蒼主院そうじゅいんに縛られることなんてないんだよ……」


 そう届かぬ言葉を口にするのだった。


 ****


「さってとー五奇いつきちゃん、ヤッホー?」


等依とうい先輩! 待ってたんですよ!」


 病室に入るなり、五奇いつきに声をかけられ等依とういは思わず目を丸くした。


「……にゃーに?」


 き返せば、五奇いつき等依とういに真剣な眼差しを向け、食い気味にく。


等依とうい先輩のおに鬼神おにがみさんのおに、なんの違いがあるんですか!?」


 問われた等依とういは思わず頬をかくと、考えながら答える。


「んん~? 違いねぇ……そうっスね……。例えるなら、犬と猫くらいみたいな?」


 あまりピンと来ない例えに五奇いつきは困惑し、それに気づいた等依とういが言葉を変える。


「えーっと、つまり、人間と共生きょうせいするんは変わらないけど、種族が違うってことっスよ」

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