第43話 各自の想い

 五奇いつきの病室を出た鬼神おにがみは、ロビーで笑い転げている空飛あきひを蹴り飛ばし、頭に手を乗せている等依とういと視線を合わせる。


「おい、等依とうい? アホはほっとけ」


 鬼神おにがみにそう言われ、等依とういは苦笑いを浮かべる。

 実を言うと無知性妖魔むちせいようまを封印するさい、帰りの状況などを考慮こうりょして等依とういがメインで祓力ふつりょくを使い、封印をほどこしたのだ。ゆえに、力をかなり消耗した等依とういの体調はあまり良くはない。


「にゃはは~、ありがとうね~ん。でも、鬼神おにがみちゃんもっしょ? おにの制御に成功したっちゅーことは、相当消費したんじゃないっスか? 祓力ふつりょく


 逆にき返された鬼神おにがみは静かに答える。


「……五奇いつき達に比べりゃマシだ。けっこう寝たしな」


「あー……。まぁそうっスね。五奇いつきちゃんといい鬼神おにがみちゃんといい。李殺道りつーうぇい? にボロボロにされたっしょ。わりとおこっスよ? オレちゃん」


 そう言うと等依とういは、「五奇いつきちゃんの着替え取って来るっス~」と言って病院から出て行ってしまった。その後ろ姿を見つめていると、ようやく笑いがおさまったらしい空飛あきひがやって来る。


「おや? 等依とういさんはどこかに行かれたのでございますか?」


「……五奇いつきの服取りに行った」


 鬼神おにがみの回答に満足したらしい。空飛あきひは自販機の方向へと向かって行ってしまった。一人残された鬼神おにがみは、少し迷ってから、家に戻ることにした。


 ****


「はぁ……」


 病室で寝転がっていた五奇いつきは、深いため息をいた。身体からだが痛むのもあるが、それよりも、全く歯が立たなかったことが辛い。


「アイツ……。報告書で読んだけど、李殺道りつーうぇいか。めちゃくちゃ強かった……。手加減されて、これかよっ!!」


 思わず声をあらげても、室内には五奇いつき一人だ。もう一度ため息をいて、身体からだの向きを変えるとあのぬいぐるみが目に入る。


「マジでこれ、なんなんだよ……。女子のセンスはわかんないなぁ」


 そう言ってぬいぐるみにれれば、いやでも鬼神おにがみのことを思い出す。


「……」


(別に? いい匂いがしたとか、思ったより柔らかい身体からだとか? 思って……思ってるけど! しょうがないじゃないか!)


 まさか彼女が自分を膝枕をするとは思っていなかった。


(しかも名前呼びとかさ! なんだよ!? 今までマトモに呼ばなかったのにさ!)


 予想外の出来事すぎて、混乱してしまう。なんとか思考を切り替えようと、別のことを必死に考え出す。


「えっと、えっと。あ! そういえば、鬼神おにがみさんは百戦獄鬼ひゃくせんごくきの制御できるようになってたな……。これで、等依とうい先輩達みたいに上手く付き合って……あれ?」


 そこでようやく五奇いつきは気づいた。


等依とうい先輩のおに達と、鬼神おにがみさんのおにって……どう違うんだ?」

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