第42話 無事生還

五奇いつきちゃん、鬼神おにがみちゃん、氷鶫ひとうー! 無事っスか!?」


 響く等依とういの声に、鬼神おにがみ身体からだをびくつかせた。


「ばっ! 大声おおごえ出すんじゃねぇーよ!」


 いつもより控えめな声で鬼神おにがみが言えば等依とういは何かを察したのか、身体からだをふらつかせながら寄って来た省エネモードの氷鶫ひとうを保護した。


「あ~オレちゃんの氷鶫ひとうがこんなボロボロに……。なんとなーく状況はわかるっスけど、鬼神おにがみちゃん?」


「わぁーってるよ。だが、説明の前にコイツを病院へ連れてくのが先だ」


 眠る五奇いつきゆびさせば、等依とういが運ぶ係を買って出た。そこでようやく火雀かがらと警戒態勢を取っていた空飛あきひが口を開く。


前衛ぜんえいはお任せくださいませ。僕達で警戒しながら車まで先導させていただきます。はい」


「どのみち、任務も達成っスからね~。オレちゃん達で無知性妖魔むちせいようま達は封印までこぎつけたし? だから……」


「後はこいつらを病院へ……だな」


 三人はうなずき合うと、洞窟からなんとか脱出した。


 ****


 五奇いつきが次に目を覚ましたのは、白い天井と暖かいベッドの中だった。


「あれ? 俺は……?」


 ゆっくりと身体からだを起こせば、全身ににぶい痛みが走る。思わず身体からだを縮こませると、すぐに看護師と医者が駆けつけてくれた。

 精密検査に問診など、一通り《ひととおり》受けた五奇いつきに下された診断は全治二週間だった。思ったよりも長い入院に、五奇いつきは悔しさをにじませるしかなかった。


「アイツ……強かったな……」


 病室のベッドの上で一人ぼやく。圧倒的な実力差だった。


「これから俺、やっていけるのかな……?」


 傷を負ったせいか、ネガティブな思考が止まらない。ふと、視線を枕元のサイドテーブルにやるとみょうなものが視界に入って来た。


「……なんだこれ……?」


 それはぬいぐるみだった。ピンク色で、兎なのかカンガルーなのか判別できない姿に形容しがたい耳に間抜けな顔をした、なんとも言い表せない姿のぬいぐるみと目が合う。


「えっ……ホント、なに……これ?」


 周囲を見渡しながらそのぬいぐるみを手に取り眺めていると、突如とつじょとして病室の扉が勢いよく開いた。


「目ぇ覚めたって!? 無事か、五奇いつき!」


 焦った様子で入って来たのは鬼神おにがみだ。その後方から、等依とうい空飛あきひの声もする。そのことに安心した瞬間、鬼神おにがみ大声おおごえをあげる。


「って、てめぇ! なに"子クマさん"持ってんだよ! てーちょーに扱えや!」


 言われて五奇いつきは思わず硬直こうちょくする。しばらくして、口を開いた。


「子クマ……さん? え? クマ……?」


「どっからどうみてもそうだろうが! めちゃくちゃあいらしいだろうが!」


「あー……コホン、そろそろオレちゃん達も入ってよき?」


 顔を真っ赤にして叫ぶ鬼神おにがみの背後から等依とういが顔を出し、少しだけ強引に病室内に入って来る。なぜか空飛あきひの口を塞ぎながら。


等依とうい先輩! その、氷鶫ひとうは……?」


 あえて空飛あきひやらぬいぐるみにはれずにけば、等依とういが優しい声で答えた。


「だいじょーぶっスよ~。ちーっとお休みさせないとダメっスけどねー」


 等依とういが微笑んだスキを突いて、空飛あきひが彼の手を払いのけ笑い声をあげる。


「あははは! そ、それ! なんてぶさい……むぐぅ!」


 再び等依とうい空飛あきひの口を塞ぐ。等依とういはそのまま空飛あきひを引きづる。


「じゃーあ、オレちゃん達はロビーにいるっスから~。そいじゃあね~」


 そう言い去って行ってしまった。取り残された五奇いつき鬼神おにがみの視線が交わる。


「あー五奇いつき。とりあえず、良かったぜ?」


「えっ、あ、ありがとう」


 そこでようやく五奇いつきは自分ので呼ばれていることに気づき、少し胸が暖かくなると同時に気恥きはずかしさに襲われた。

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