第40話 落ちた二人と

「おい、おい! 大丈夫かよ! なぁ……おいってば!」


 誰かの泣きそうな声で、五奇いつきは目を覚ました。


「うっ……ここは?」


「……洞窟の底だ……。落ちた穴は瓦礫がれきがやばくて近寄れねぇ……。チャラ男が寄こしたコイツのおかげで、五体満足だけどな?」


 言われてようやく、五奇いつきにぶい頭で周囲を見渡せば氷鶫轟鬼ひとうのごうきが二人を見守るように立っており、鬼神おにがみ五奇いつきを膝枕していた。


「ってえええええ!?」


 そのことに気づいて、慌てて起き上がろうとする五奇いつきに、鬼神おにがみ大声おおごえをあげる。


「ばっ! 動くんじゃねぇよ! 怪我がなくても、その……いいから動くな!」


 震えた声で言う鬼神おにがみの様子に、五奇いつきは首をかしげながらく。


「あの……? なんでその、辛そうなんだ?」


「俺様のせいだろうが!」


 彼女は目を真っ赤にさせながら、さらに声を張り上げた。


「こうなったのは俺様が油断したからだろうが! だから……だから……」


 とうとう顔をおおってしまう彼女に、五奇いつきは目を見開いて驚く。


鬼神おにがみさん……そんなふうに思うことないのに)


そう思い、五奇いつきが口を開こうとした瞬間だった。氷鶫ひとうが防御体勢をとり、何者かからの攻撃を防いだ。


 驚く二人に、その人物が武器を揺らしながら近寄ってくる。そこにいたのは……。


「なっ……お前は! 『爆炎ばくえん妖魔ようま』の時に現れた男!?」


 あの青年だった。


 ****


 その頃。

 空いた穴をけるようにしながら、等依とうい空飛あきひ無知性妖魔むちせいようまを倒していた。

 先陣を切る空飛あきひを、等依とういの操る火雀応鬼かがらのおうきを主軸にした簡易式神かんいしきがみの連携でサポートをしていた。


「あの……五奇いつきさんと鬼神おにがみさんは大丈夫でございましょうか? っと、あひゃあ!」


 無知性妖魔むちせいようまの不意打ちをなんとかかわしつつ、空飛あきひ等依とういけば、彼は不安げな声で答えた。


「んー? 大丈夫だと思いたいんスけどねー? なぁんか、いるみたいっスね……。にゃんで、空飛あきひちゃん、無知性むちせいちゃん達、倒しつつ合流するっしょ?」


「いる? とはなんのことでございましょうか?」


 等依とうい式神しきがみ火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきは二体で一つの存在だ。故に、のだ。


「とにかく! 二人と氷鶫ひとうがピンチっぽーなんで、行くっスよ!」


「ピンチ! それはよろしくないでございますね! 承知いたしました! 行きましょう!」


 ようやく納得してくれた空飛あきひとともに、等依とういは二人と一体と合流できないかルートを急いで模索もさくするのだった。


 ****


「お前達こそなんだ? 妖魔ようまと戦う者でありながら、妖魔ようまかばうのか?」


 氷鶫ひとうを襲った青年にそうかれ、五奇いつき氷鶫ひとうのおかげでそこまでではないが、ダメージを負った身体からだを無理やり起こしながら答えた。


妖魔ようまだからってだけで、あくと決めつけるお前こそ! どうなんだよ!?」


 氷鶫ひとうかばって立つ五奇いつきの前で、青年は感情の読めない顔と敵意の視線を向けてくる。くだん氷鶫ひとうは今、青年に吹き飛ばされて壁に激突、省エネモードであるつぐみの姿になっていた。


妖魔ようまめっする。邪魔するならお前もめっする。死ね」


 そう言うと青年は、バタフライソードを構え直し、殺気を放つ。そのあつに足がすくみそうになりながらも、五奇いつきほうも負けじと言い返す。


「俺は死ぬつもりはない! 氷鶫ひとうもやらせない! 守ってみせるさ!」

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