第39話 無知性妖魔

 洞窟内に一歩足を踏み入れただけで、冷たい空気と数多あまた妖魔ようま達の気配を感じる。低級であることはわかるが、齋藤の言葉の通り、その数が把握しきれない。

 輪音りんねの鈴が鳴り響くため、五奇いつきに緊張感が走る。その様子を感じ取った鬼神おにがみ等依とういも警戒心を上げた。……いまたのしげな空飛あきひを残して。


「……おい、てめぇはもうちっと緊張感を持てや!」


 たまりかねた鬼神おにがみが声をあらげる。すると空飛があっけらかんと答えた。


「えっ? 緊張はしているのでございますが?」


「そういう意味じゃねぇんだよ!」


 とうとう怒り出す鬼神おにがみを、等依とうい五奇いつきがなだめる。


「まーまー、空飛あきひちゃんはこれがデフォってーことで!」


「今は仲間割れしてる場合じゃないからさ! 鬼神おにがみさんの気持ちはわかるけど! とりあえず、いつでも攻撃できる体勢に入って! ね!」


 二人にたしなめられたため、鬼神おにがみは今にも掴みかかりそうだった両手をポケットにしまい、五奇いつきの方へ視線をやりながら口を開く。


「ふん。おら、ノー天気バカは置いといてさっさと行くぞ!」


 それを受けて五奇いつきも再度緊張感を持ち直し前を向くことにした。


「あの、僕はなにかしたのでございましょうか?」


 呑気にいう空飛の声が聞こえて来たのを無視して。


 ****


 洞窟内を進むこと数分で、奥から次々と妖魔ようまがあふれて来た。その姿は、一様に身体からだが長くめんのようなものを被っていた。


「うーん? こっれーが、"無知性妖魔むちせいようま"っちゅーヤツっスね~」


 "無知性妖魔むちせいようま"。まだ解明されていない部分も多いが、妖魔ようまの中でも低位ていいで、本能のままに動物や……人を襲う存在のことだ。「巨大な"むし"みたいなもの」だと、以前ルッツに言われたことを五奇いつきは思い出していた。


「こいつらを根絶やしにすりゃいいんだろ? やってやるよ!」


「僕も頑張らせていただきます。はい」


「そいじゃま~やるっスかー」


 口々に声をあげる三人に五奇いつきも深くうなずくと、先陣を切って無知性妖魔むちせいようまの内の数体に向かって行く。


参弥さんびセット、ゴー!」


 参弥さんびのワイヤーブレードで一気に四体を斬り裂くと、続けて輪音りんねで迫って来た一体を斬り捨てた。


「僕も行かせていただきます! はい!」


 五奇いつきの戦闘に触発しょくはつされたらしい、空飛あきひがノリノリで舞うように翅剋しかつ羽刻はこく妖魔ようま達を斬り裂いて行く。その様子に、鬼神おにがみも高まったらしい、祓力ふつりょくを乗せたこぶしで近くに寄って来た妖魔ようまを殴る。


「ハッ! 俺様だってやれんだよ! おっらぁ!!」


 得意げな彼女に、等依とういが口笛を一吹きする。


「お~みんなやるっスね~。オレちゃんは、どーすっかにゃー?」


 等依とうい主武器しゅぶきである式神しきがみ火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきはサポート向きだ。火雀かがらが戦闘力が高く前衛ぜんえい向きで氷鶫ひとうが防御力が高く後衛こうえい向きという違いはあるが、それだけだ。

 その時だった。五奇いつきが真っ先になにかの"おと"に気がついた。


「ん!? なんか、おとが……足元から? ひび割れ!? あ! 鬼神おにがみさん! 危ない!」


 五奇いつきが叫ぶが、鬼神おにがみは戦闘に夢中で気づいていない。


「くっそ! 鬼神おにがみさん!!」


 あわてて彼女のもとへ駆け寄るも、ひび割れはあっという間に広がり、足元が崩れ落ちて行く。


「なっ!?」


 ようやく鬼神おにがみが気づいた時には、五奇いつきが彼女を抱きしめ、そのまま落下していた。


五奇いつきちゃん、鬼神おにがみちゃん!!」


 等依とういの声と、冷たいなにかに支えられている感覚に包まれながら、二人は深い底まで落ちた。

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