第35話 それぞれの思い

 庭に出た五奇いつき鬼神おにがみは、折り畳み式のイスを広げ、少し距離を取って座った。

 しばらくの沈黙の後、ようやく彼女は口を開いた。


「なぁ……」


「うん?」


「正直に言え。俺様は……足手まといか?」


 思ってもいなかった質問に、五奇いつきは目を見開いて驚きながらも間髪かんぱつ入れずに答えた。


「そんなことないよ! 確かに百戦獄鬼ひゃくせんごくきを制御できてはいないけど、それは些細ささいな問題だよ! 足手まといなんて、俺も……他の二人も思ってないさ!」


 そう言って五奇いつき微笑ほほえめば、鬼神おにがみは頬を少し染めて、一言呟いた。


「そうかよ……」


 またしての沈黙の後、鬼神おにがみは椅子を畳んで早々そうそうと室内へと戻って行ってしまった。五奇いつきはそれを茫然ぼうぜんと眺める。


「な、なんだったんだ?」


 そして……ただ困惑するしかなかった。


 ****


 部屋に戻った鬼神おにがみは、扉を閉めるとその場に座り込んだ。


「はぁ~……」


(足手まといじゃない……か)


「お人好しかよ……」


 そう言って近くにあった、お気に入りのぬいぐるみである"くまさん"を抱っこする。それに顔をうずめる。


「ばーか」


 誰に聞かせるでもなく、呟いた。


 ****


 その頃。自室に戻っていた空飛あきひは、部屋着である浴衣に着替えて布団に寝転がっていた。思い起こされるのは、『爆炎ばくえん妖魔ようま』との最初の戦闘でのことだ。


(僕は黒曜こくようの力を使った……。あの場所ではそうするしかないと思ったからだけど……)


 大妖魔だいようま"黒曜こくよう"。大昔に生きた高位妖魔こういようまの一体と


(なんで、黒曜こくようとして生きていた時代のことは覚えているのに、今の僕が黒曜こくようの力を使うと、記憶を無くすんだろうか? それに、なんで……)


「なんで、数分しか黒曜こくようになれないんだろう?」


 そう。空飛あきひには黒曜こくようだった頃の記憶が鮮明せんめいに残っている。だが、それなのにも関わらず、空飛あきひとして黒曜こくようの力を使うと


 それがどうにも引っかかるのだが、空飛あきひには名案が思い浮かばないのが現状だ。他の三人に相談してみようかとも思ったのだが……。


「いやいや、鬼神おにがみさんのことでも手一杯なのに。僕なんかのことまでは、言えないよぉ」


 そうして布団の上で頭を抱えるしかなかった。


 ****


「ふぃ~。あ~あ~、眠いっスねー」


 自室で音楽雑誌を読んでいた等依とういは、読む手を止める。そして、火雀応鬼かがらのおうき氷鶫轟鬼ひとうのごうきの方を見る。

 今の彼らは普段のおにの姿でも、ましてや火雀かがらは赤いすずめ氷鶫ひとうは青いつぐみの姿を取っていた。等依とういはその状態を省エネモードと呼んでいる。


 そんな彼らの身体からだを撫でると、等依とういはいつになく真剣な表情を浮かべ、呟いた。


「さてと……こっからどーなるっスかね? オレちゃんごときにできること、あっかな~?」


 こうして、四人の一時ひとときの休みは過ぎて行った。

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