第33話 力で勝たなくていい

「あァ? なんだァ?」


 殺気を隠そうともせずに言う『爆炎ばくえん妖魔ようま』に対し、五奇いつきが叫ぶ。


「『爆炎ばくえん妖魔ようま』! これ以上被害は出させない!!」


 五奇いつきが先陣を切って、攻撃を仕掛けた。参弥さんびやいば部分を射出しゃしゅつ妖魔ようまに向かって放つ。続いて空飛あきひ二対についの短刀を交差させる。


「行かせていただきます! 黒曜抜刀術こくようばっとうじゅつ! 双十字斬そうじゅうじざん!」


 だが、二人の攻撃は妖魔ようまの炎にいともたやすくかき消されてしまった。


「あァ? 弱ぇなァ!? あん時のならまだマシだったがァ……! 今のじゃ弱ぇ! やっぱアイツじゃなきゃダメだァ!!」


 『爆炎ばくえん妖魔ようま』はそう大声おおごえを上げると、全身から炎を噴出ふんしゅつさせた。その勢いは凄まじく、妖魔ようまが立っている地面が焼け焦げるほどだった。


「あっつ!? おい、マジでどーすんだよ!?」


 鬼神おにがみの動揺した声に、等依とういも賛同する。


「そうっスよー。眼中がんちゅうになしって感じなんスけど~」


「……でも! やらないと! それに、ルッツ先生が言ってた通り、力で勝たなくていいんです!」


 五奇いつきは先程ルッツとかわした会話を思い出していた。


 ****


「力で勝たなくてもいいって、どういう意味ですか?」


 五奇いつきけば、ルッツがほがらかに答える。


「言葉の通りさ。君達は、『爆炎ばくえん妖魔ようま』に。意味、わかるかい?」


 首をかしげる四人に対し、彼は言葉を続ける。


「純粋なパワーでなら、確かに今の君達では勝てないだろうね? だけれども、知恵でなら別さ。炎に勝てる能力なら一人、持っているだろう?」


 そこで言葉を切り、ルッツは等依とういほうへと視線をやる。等依とういは気まずそうに、視線をズラした。


「……確かに氷鶫轟鬼ひとうのごうきは水属性である氷っスよ? でも、防御特化で……攻撃には回れないっしょ」


 いつもよりワントーン低い声で答える等依とういに、今度は空飛あきひが口を開いた。


「ですが、それでございましたら……!」


 ****


「ガチで……やるんスか~……えぇい! なるようになれっス!」


 等依とういが意を決したように、氷鶫轟鬼ひとうのごうきに指示を出す。


氷鶫ひとう! 防御全振りで……"氷円鏡ひえんきょう"発動!」


 『爆炎ばくえん妖魔ようま』の周囲に氷の壁が次々と現れ、彼を炎ごと閉じ込めることに成功した。だが、中から暴れている音が響く。


「おい! ここからどうすんだよ!?」


「このままですと、破られてしまいますでございますよ!?」


 鬼神おにがみ空飛あきひの焦る声が耳に入ってくる。それに対し、五奇いつきは必死に思考を巡らせる。


(確かに二人に言う通り、このままだと時間の問題……時間? あの妖魔ようま……アイツと戦いをやめた時なんて言っていたっけ?)


 あの時の『爆炎ばくえん妖魔ようま』の言葉が五奇いつきの脳裏によぎる。


『夜が明けるかァ』


(確かにアイツはそう言った。そして、夜が明ける前に退却していった……なら!)


「みんな! 夜が明けるまでです! 夜を超えるまで、『爆炎ばくえん妖魔ようま』を足止めしましょう!」


 五奇いつきの言葉に他の三人が時計を確認した。夜が明けるまであと二十分はある。


「ちょー!? けっこーしんどいんスけど……。いや、マジでやべぇ……!」


 等依とういのトーンがどんどん真剣なものに変わっていく。それほどまでに彼にかかっている負荷は大きいのだ。五奇いつきは、どんどん破壊されていく氷の隙間すきまめがけてブレードを放つ。感触で中にいる妖魔ようま身体からだのどこかに刺さったのだとわかった。


「これで……! 空飛あきひ君と鬼神おにがみさんは、妖魔ようまが氷を破られそうになったら、一気に攻撃をしかけて! 当たらなくていい! とにかく足止めを!」


「ちっ! やりゃあいいんだろ! やりゃあよ!!」


 悪態あくたいきながらも、鬼神おにがみがファインディングポーズを取った。続けて空飛あきひも短刀を構えなおす。氷鶫ひとうが形成した氷の結界けっかいがどんどん溶け、破壊されていく。


「うっ……あ……」


 等依とうい祓力ふつりょくが限界を超えた。彼は倒れそうになり、それを火雀応鬼かがらのおうきが現れて支えた。


(すみません、等依とうい先輩……! あと、二分!)


 完全に破壊された瞬間に、言われた通りに鬼神おにがみ空飛あきひが『爆炎ばくえん妖魔ようま』に向かって攻撃した。鬼神おにがみはとにかく殴りかかり蹴りかかり、空飛あきひはリズミカルにやいばで斬りつけようとしていく。


「ちィ! おいおいおいィ! アイツを探してんだァ! 雑魚に用は……はっ! 夜明けか!?」


「そうだ! 悪いけど……倒されてくれ!」


 『爆炎ばくえん妖魔ようま』が逃げようとするのを五奇いつきがワイヤーブレードを放って巻きつけて阻止する。そうしているあいだに夜が明けた。


「ぬぁあああああ!! 日はダメだァ! 力が奪われる!」


 『爆炎ばくえん妖魔ようま』の炎がてんに向かってのびていき、妖魔ようま身体からだが蒸発しはじめた。


「ど、どういうことだよ!? 妖魔ようまってに弱いとかねぇだろ!?」


 驚く鬼神おにがみに、空飛あきひが静かな口調で答えた。


「おそらくでございますが、この妖魔ようまの特性が、日光に弱かったということでございましょう。……いずれにせよ、終わりでございます。はい」


 妖魔ようま断末魔だんまつまだけが、辺りに響き、最期さいごはいすら残らずに消えていった。

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