第30話 報告と

 透き通る朝日あさひの中、失意のままトクタイへと戻った五奇いつき達Eチームの面々めんめんは、齋藤に渡すための報告書をまとめることになった。


 もっとも、空飛あきひは気を失った上黒曜こくようの人格になっていたし、鬼神おにがみ等依とういは遅れて合流したため、報告書の大半は五奇いつきが書くはめになったのだが。


「それにしても、まさか黒曜こくようになると人格が変わるだけじゃなくて、記憶までなくなるなんてね……」


 五奇いつき苦笑くしょうしながら呟くと、空飛あきひが心の底から申し訳なさそうな表情で頭を下げる。


まことに申し訳ございません! 五奇いつきさんには本当に、なんとおび申し上げたらよろしいのか……!」


「あぁ、いいよいいよ。気にしないで! それより、身体からだほうはもう大丈夫?」


 五奇いつきけば、空飛あきひが元気さをアピールするかのように声を張り上げた。


「はい! おかげさまで!」


 そんな空飛あきひの様子を見て、五奇いつきは内心で黒曜こくようせっした時のことを思い返す。


(完全に空飛あきひ君じゃなかったな……。鬼神おにがみさんが"ちから"の暴走なら、空飛あきひ君は"精神たましい"の暴走って感じ?) 


「それで、その……『爆炎ばくえん妖魔ようま』との戦闘中に現れたという、謎の人物とはいったい何者なのでございましょう?」


 空飛あきひが話題を変えてたずねれば、等依とういが答える。


「少なくとも味方ってわっけーじゃ、なさそ~っスよ?」


「いずれにせよ、只者ただものじゃねぇことは確かだろうぜ? チッ!」


 そう言って舌打ちをする鬼神おにがみに、誰もなにも言えず、報告書をしあげることにした。

 しばらくして報告書をあげた四人は、仮眠をとることにした。というのも、齋藤から「任務完了までが仕事だ」と言われてしまったため、体力を回復させるためだ。


 ****


 仮眠室で寝転がりながら、等依とういは早々に眠ってしまった五奇いつき空飛あきひを横目で見て、一人ぼやく。


「まぁ、現実的に考えて……オレちゃんの限界っスよね……」


 その声はどこまでも無機質で、冷めていた。


(このままだと任務完了は難しそうっスねー。まぁ、オレちゃんになにができるもねーっスけど)


 ため息を吐くと、等依とういも眠ることにした。


 ****


 寝静まった仮眠室のベッドの中、空飛あきひ突如とつじょうめき声をあげる。


「うぅ……」


 ――暗くて不気味な静寂せいじゃくの中。

 ――鮮血せんけつを浴びると転がる

 ――血濡ちぬれの両手をてんかかげ、わらう。

 

「うわぁああああああ!?」


 叫び声をあげて飛び上がれば、五奇いつき等依とういが驚いたように起き上がり、空飛あきひに声をかける。


「ど、どうしたの?」


「んん~? なしたんスか?」


 二人に心配され、空飛あきひの意識がクリアになってきた。彼は浅く呼吸を繰り返し、落ち着いたところで、返事をする。


「な、なんでもございません……申し訳ございません」


 そう力なく答えると、再び横になる空飛あきひに、五奇いつき等依とういは顔を見合わせ、心配そうに彼を見つめた。


「どうしたんでしょうね……?」


「さぁ? まぁ人には色々あるっスからねー」


 そう短く会話をした後、眠気と疲労に勝てず二人も再び眠ることにした。

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