第29話 現実

「はっはっ! いいねェいいねェ!」


 『爆炎ばくえん妖魔ようま』はたのしげな様子で叫ぶ。


本気まじ本気まじのォ! 限界を超えたパワーだァ!」


 とてつもない出力しゅつりょくの炎を全身にまとうと、妖魔ようまは青年に向かって行く。そのスピードは凄まじく、五奇いつき達は目で追うのが精一杯だった。


「なぁチャラ男……ホントにこのままでいいのかよ?」


 鬼神おにがみ等依とういけば、彼はいまだ気を失ったままの空飛あきひを支えながら答える。


「こーゆー時は、静観せいかんするにかぎるっスよ。どのみち、今のオレちゃん達にはどーしよ~もないっスからね!」


「それは、そうなんだけど……」


 五奇いつきこぶしを握りしめ、悔しそうにしながら二人の戦いをただ見つめることしかできなかった。


「オラオラオラァ!!」


 動きがはやすぎて、どんな動きをしているのかもはやわからない。ふと視線を横にズラせば、鬼神おにがみくちびるを噛みしめていた。自分達の実力をいやでも思い知らされた。そんななか等依とういが小さく呟いた。


「……まぁ、これが現実リアルっスよね……」


 その声はとてもめていて、いつもの等依とういとは別人のようだった。


 ****


「これでェ! 終わりだァ!」


 妖魔ようま大声おおごえを張り上げながら、青年に向かって炎の螺旋らせんを放つ。


「……せろ」


 だが。青年はバタフライソードを交差させ、両方のやいばに銀色の光をまとわせて炎の螺旋らせんを斬りはらい、妖魔ようまが動揺したそのすきをついて青年がふところに入り込み、妖魔ようまの腹を容赦ようしゃなく斬りいた。


「いっつ! やるなァ……!」


 胴体から血を吹き出しながら妖魔ようまは空を見上げる。


「夜が明けるかァ……じゃあまたなァ!」


 血を流したまま、炎を噴射ふんしゃして飛び上がり、あっというにいずこかへと消えて行った。それを見つめながら、青年は舌打ちをして、バタフライソードをしまい、五奇いつき達を気にすることもなく、その場を立ち去ろうする。


「ま、待ちやがれ!」


 鬼神おにがみが声を絞り出せば、青年はこちらへ視線をやり、一言告げる。


「人間に用はない」


 その声はどこまでも冷たくて、青年が本当に興味を持っていないことがいやでも伝わって来た。どこからともなく現れたバイクに乗ると、今度こそ青年はどこかへと走り去って行った。

 取り残された四人はしばし茫然ぼうぜんとし、しばらくしてようやく五奇いつきが口を開いた。


「……とりあえず、本部へ戻りましょう。空飛あきひ君をこのままにしておけないし」


「そうっスねー。オレちゃんも空飛あきひちゃん運ぶの手伝うっスから~」


 やりとりこそいつもとかわらないが、二人の声はあきらかにしずみ、鬼神おにがみいたっては覇気はきがない。全員が、打ちひしがれていた。 

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