第27話 夜の怪物

 その声のあるじは『爆炎ばくえん妖魔ようま』の攻撃を、黒いバリアのようなもので防ぐと、そのまま妖魔ようまを蹴り飛ばした。


「えっ? あき……ひ、君?」


 五奇いつきが戸惑った声を漏らす。そこにいたのは、いつもの空飛あきひの姿ではなかった。

 いつもより長い黒髪に、いつもとは違う金色のひとみ。そしてなにより、に気づいて、五奇いつきはようやく合点がてんがいった。


「……もしかして、黒曜こくよう?」


 そう呼べば、空飛あきひであり、黒曜こくようでもあるその人物は、不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ。わしに気づくとは誉めてやろう、人間。おっと、来るぞ?」


 黒曜こくようが黒いつたのようなもので、襲ってくる『爆炎ばくえん妖魔ようま』に対抗する。黒曜こくようは余裕たっぷりといった表情をする。


「あの程度、わしにかかれば造作ぞうさもない。そこで震えて見ているがいい! 人間!」


「聞こえてるぜェ、兄ちゃん! 何が造作ぞうさもねェってェ!?」


 妖魔ようま黒曜こくようめがけて勢いよく炎を放つ。黒曜こくようはそれを先程と同じ技で防ぐ。


「ぬるいわ!」


 黒曜こくようは黒いつたを無数に出して、妖魔ようまへ向けて次々と放っていく。たのしそうにけながら、妖魔ようまが無邪気な声をあげる。


「はっ! 半妖はんようかァ! おもしれェ! おもしれェよ!」


 次々と放たれるつたを、妖魔ようまは今度は炎をまとったこぶしで殴り出した。そんな妖魔ようまを見て黒曜こくようは言う。


「ふむ? げいの無いやつよな。では、わしも少し本気ほんきになるとしよう!」


 背中から大きな黒いつばさを生やして羽根はねを飛ばし、大きな頭上ずじょうに作り出した。


黒き羽根の円舞くろきはねのえんぶ!」


 その羽根はね上空じょうくうへと浮かんだかと思うと、雨のように妖魔ようまの周辺に降り注いだ。

 地面に突き刺さるほどの硬度を持った羽根はねはもはややいばそのもの。妖魔ようまけ切れず、黒曜こくようの攻撃を食らう。だが……。


「ははははっ! おもしれェ! いてェ! たのしいぜェ!」


 なおもたのしげな、妖魔ようまの傷ついた身体からだは、炎を上げながらあっというに回復していく。


「ぬ? これは驚いた。貴様、何種なにしゅだ?」


「そんな事言ってる場合じゃないだろ!? どうするんだよ?」


 五奇いつきとがめるように言えば、黒曜こくようは不機嫌そうに五奇いつきにらみつけた。


「なれなれしいぞ、人間。わしを誰と心得こころえている? よい、きた」


「はぁ!?」


 黒曜こくようの言葉に五奇いつきが驚いていると、すっかり傷を治した妖魔ようま両腕りょううでから今日一番の炎を噴き出した。そして、両腕りょううでを合わせると……。


「それじゃァ、行くぜェ? 限界を超えた炎! 爆炎竜フレイムドラド!」


 うずが現れ、炎の竜のあたまが現れた。


「あっつ! って、うわぁぁ!?」


 炎の竜は、五奇いつき黒曜こくようを飲み込むべく大きな口を開き、襲ってきた。


「ふはははは! わりとたのしかったぜェ! さァ、はいとなれェ!!」


 思いのほか近くから妖魔ようまの声が響くが、五奇いつきはそれどころではない。


(ど、どうしたら!? 防ぎようが!)


黒曜こくよう! どうしたらって、えぇ!?」


 五奇いつきが横を見た瞬間、黒曜こくようはいつもの空飛あきひの姿へと戻っていた。しかも、気を失っているようだった。


「うっそだろ!? はっ! し、死ぬ! これは、死んでしまう!」


(終わるのか…? ここで? 俺は! 俺は!!)


 炎の竜は、容赦なく五奇いつき達を飲み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る