第26話 『爆炎の妖魔』

 最初に異変に気付いたのは、五奇いつきだった。輪音りんねの鈴が激しく鳴る。


空飛あきひ君! なにか、来る!」


 二人が今いるのは、住宅街から離れた河川敷かせんじきだ。人避ひとよけの術式じゅつしきが組み込まれたふだを周囲に飛ばす。ふだの数で範囲が変わるため、正確なところはわからないが、少なくとも住宅街まで被害が及ぶことはないと五奇いつきは判断した。


「ど、どこから来るのでございましょうか!?」


 二対についの短刀を構えながら、空飛あきひがそう言った瞬間だった。赤い炎のかたまり、いや、よく見れば人の形をしたなにかが勢いよく空から炎をまとって二人に向かって炎のたまを放った。

 慌てて距離を取ると、二人はなんとかその攻撃をけた。炎をまとったはゆっくりと地面に穴を開けて着地した。


「おォー? これをけるかァ!! いいなァ、小僧共こぞうどもよォ!?」


 それは心の底からたのしそうに声をかけてくる。


「お、お前は!? いや、お前が『爆炎ばくえん妖魔ようま』!」


 五奇いつきが叫べば、『爆炎ばくえん妖魔ようま』は口元をゆがめる。全身に炎をまとっているが、人型ひとがたであること、男であることはわかった。


「『爆炎ばくえん妖魔ようま』とはァ、オレのことだァ! それにしても……いいねいいねェ!」


 愉快ゆかいそうに男は笑う。だが、隠そうともしない殺気に、五奇いつき空飛あきひはより警戒をしながら『爆炎ばくえん妖魔ようま』と対峙する。


「お前の目的はなんだ! なぜ人を襲うんだ!?」


 五奇いつきが怒りを込めた声でそうけば『爆炎ばくえん妖魔ようま』は、いたって普通のことのように答えた。


「あァ? んなもん決まっているだろうがァ? つえェヤツと戦うためさァ! んでェ? 坊主共ぼうずどもはどうなんだろうなァ!!」


 大声おおごえをあげ、妖魔ようまが勢いよく右腕を地面に向かって振り下ろした。円形状に炎のなみが現れ、二人を襲う。


「うわ!?」


「あひゃあ!」


 五奇いつき空飛あきひは炎のなみけるように距離を更にとり、妖魔ようまの技を回避した。だが、気付けば妖魔ようま五奇いつきの目の前にいて、右のこぶしを振り上げていた。


「なっ!?」


 慌てて五奇いつき参弥さんびで攻撃を防ぐが、勢いが凄まじく後方こうほうへと吹き飛ばされてしまった。


五奇いつきさん! くっ! 行かせていただきます! 黒曜抜刀術こくようばっとうじゅつ! 双十字斬そうじゅうじざん!」


 負けじと空飛あきひが技を放つが、妖魔ようまは炎の壁を出し、ふせいだ。


「そんな!?」


「そんな!? じゃねェんだよなァ! ってあァ? 坊主ぼうず半妖はんようかァ! おもしれェー!」


 『爆炎ばくえん妖魔ようま』は面白い玩具おもちゃを見つけた子供のように無邪気な声をあげ、空飛あきひに向かって無数の炎のたまを放つ。


「う、はっ! うわぁ!?」


 それをギリギリでかわす空飛あきひすきいて、妖魔ようまこぶし空飛あきひ腹部ふくぶへと入った。


「がはっ!?」


 あまりの衝撃に苦しげな声をあげる空飛あきひに、妖魔ようまは容赦なく炎を放つ。空飛あきひ身体からだが炎に包まれた。


空飛あきひ君! くっそぉおお!!」


 みぎわ身体強化しんたいきょうかの加護を受けているうえ半妖はんようである空飛あきひなら炎にもいくぶんか耐えられるだろうが、それでも危機であることにかわりはない。


「はっ! 他愛たあいもねェな、と!」


 空飛あきひに気を取られているすきをついた五奇いつきやいばは、あっさりとかわされてしまった。


「くっ! なら、これでどうだ! 参銘さんめい閃牙せんが!」


 一番攻撃力が高い技を繰り出したためか、妖魔ようまは川のほうへと吹き飛んでいく。


(よし! 早く空飛あきひ君を助けなければ! 生きてる、よな?)


 そう思考を巡らせ空飛あきひに近寄ろうとした瞬間、川の中から体勢を立て直した妖魔ようまが現れた。


「嘘だろ!? 炎なら水って! えぇい、クッソ!」


「ふはははは! 今のは悪くなかったぜェ? だが、終わりだァ……。!」


 妖魔ようまの全身から炎が上がり、かたまりとなって五奇いつき達がいる場所に勢いよく接近してくる。


(まずい! ど、どうしたら!)


 パニックになりながら、妖魔ようまの攻撃をなんとかしようと武器を構え直した時だった。横から、調耳に入ってきた。


「ふん。この程度、わしにかかれば造作ぞうさもなし」

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